2014 年 39 巻 p. 75-92
本稿では、近世中期における都市部の民衆が持った「家」に対する集合心性を、明らかにすることを目的とする。近世中期において民衆から支持された近松門左衛門脚本の世話物11作品を分析史料として取り上げ、男性主人公に共通した入聟や養子という立場に着目し分析を行った。男性主人公が共通して抱えた「家」に対する葛藤や自身の立場への否定的な態度を分析することで、近松世話物に表象された民衆の「家」に対する集合心性を明らかにすることを試みた。
本稿の試みによって、当該期における民衆の「家」に対する心性の複雑性を提示することが出来た。さらに、近世中期における都市部の民衆が持った「家」に対する心性は肯定的または否定的であったというような二元論で語れるものではなく、複雑な感情を内包していたことを、メディアにおける表象から示した。