2019 年 44 巻 p. 5-22
本稿の目的は、近年の認知症に関する社会的動向の中で、認知症者やその家族がいかなる経験をしているのかを、現象学的記述によって開示することである。健康と病いの語りディペックス・ジャパンが著した『認知症の語り』から、本人と介護者の役割に関する語りを抜粋し、その経験の成り立ちを分析した。その結果、両者ともに、認知症の理解の難しさを感じており、その背景には、当事者たちも自覚せずに持っている認知症に対する偏見や、家族や社会が長らく当たり前と思っている先入見が潜んでいた。他方で、彼らの語りは、家族関係のみに埋没せず社会の多様な考えに触れることが、その偏見や先入見を乗り越えることを示していた。