抄録
1950 年代から1970 年代末まで,当時の計画経済体制の下で中国都市部の住宅は全て政府により提供・配給され,住宅市場と住宅価格は存在していなかった。1978 年から開始された経済体制改革により,都市住宅制度の市場システムへの転換が始まり,市場価格での取引を行う住宅市場も徐々に形成された。1998 年7 月に住宅の現物支給に終止符が打たれたことに伴い,中国では住宅市場が正式に定着し,住宅価格がほぼ完全に市場メカニズムによって決定されるようになった。それ以来,住宅の建設・消費が拡大しつつあり,都市部住民の居住環境が大きく改善されたが,住宅価格は著しく上昇してきた。特に2003 年以降,価格上昇が一層加速し,住宅バブルへの懸念が高まり,その動向に国内外から高い関心が寄せられていた。しかし,住宅バブルが実際に起きているのかについて,コンセンサスはまだえられていない。その一方で,居住や投資を目的とする住宅購入の需要が増加しつづけている。中国政府は,こうした動向を警戒し,住宅市場への政策介入を試みようとしている。しかし,政策介入する前に答えなければならない根本的な疑問がある。それは「現状の住宅価格水準が合理的かどうか」である。中国の住宅価格の合理性に関する議論は数多く出されているが,論者の立場・使用データ・分析手法等がかなり異なるため,導かれた結論も多様である。そのため,各種論点の信頼性は,一般市民にとって非常に判断しにくい。本稿の前編では,住宅価格の合理性に関する論争に着目し,中国の住宅市場に関わる各方面(利益集団・市場参加者・市場観察者・市場運営者)の
代表的な人物の論点を整理してみる。そして彼らの異なる立場を探ることによって,論争における問題点を明らかにする。後編では中国の住宅市場を分析するための現段階の最適な方法を選定した上,関連統計データを用いて,住宅価格の合理性を分析し,バブルの有無を判断する。