抄録
持続可能な社会に向けた取り組みにおいては,行政のイニシアティブのみならず,市民と企業による関与と貢献は不可欠な要素である。北九州市はかつて深刻な公害を克服した経験を基にいち早く環境重視の政策と国際協力を推進し,持続可能な環境都市づくりの先駆的ケースとして世界的にも注目を浴びるようになっている。高度成長期の公害克服に際しては,「北九州方式」(もしくは「北九州モデル」)と呼ばれる,行政・市民・企業の間の緊密なパートナーシップの仕組みが構築され,効果的に課題に対処できたといわれている。
本研究では,近年の環境関連課題の多様化・複雑化に応じて,「北九州方式」と呼ばれる行政・市民・企業の間のパートナーシップがどのように進化しているか,そして,その新たな方向性について考察する。まず,第2 節では,市民による環境活動への取り組み状況をみる。北九州市の環境問題克服の歴史において,市民の果たした役割は大きく,その経験は現在の市民活動にも受け継がれている。現在における北九州市の市民活動の特徴と課題について分析するとともに,「市民環境力」の一層の向上に向けた方策について考察する。第3 節では,行政と企業の連携による環境国際協力と環境ビジネス推進の現況をみる。特に北九州市が擁する環境関連技術の海外ビジネス展開に向けた戦略と課題について考察する。そして,第4 節では,低炭素社会構築に向けた自治体行政と企業の連携における新たな分野として,アジア諸国において導入されつつある自治体排出権取引制度の域内リンクの可能性と効果について考察する。
なお本稿は,第2 節までを「前編」として当3 月号に載せ,第3 節以降は「後編」として次回6 月号に掲載する。