抄録
本稿は,起業家/ スタートアップを生み出し,成長を促す地域の土壌を「スタートアップ・
エコシステム」として捉え,台湾の事例分析を通して,そのシステムとしての全体像を把握
することを目的とする。本稿の分析枠組みでは,エコシステムを「起業家/ スタートアップ」
と「支援アクター」という2 つのセグメントに大別する。健全なエコシステムでは,「起業家/
スタートアップ」セグメントは,「起業家/ スタートアップが成長し,その起業家チームの一
部がメンターやエンジェルとなり後輩起業家を支援する,もしくは連続起業家として再度事
業に挑戦する」という正の循環(小循環)を通して発展していく。また「支援アクター」内
の構成要素,すなわち大学/ 研究機関,成熟企業(特に大企業),資金提供者(ベンチャー
キャピタル等),その他支援アクター(本稿ではアクセラレータに注目)は,各々の立場から
起業家/ スタートアップを支援し各種リソースの提供を行う。逆に,スタートアップが成功
した際は,支援アクターに色々な形での見返りがある(投資収益,事業・技術の補完等)。こ
の循環(大循環)が回り続けることでエコシステム全体が存続・成長していくと想定する。
加えて,政府の取り組みおよび域外・海外との外的リンケージ(外的循環)の影響も考慮す
る。本稿では,台湾の事例に即して,これらの要素・メカニズムを分析し,エコシステムと
しての特徴や発展状況を明らかにしていく。結論的には,現状では依然未成熟ではあるもの
の,各アクターは鋭意進化しており,台湾特有のテーマ(ハードとソフトの融合による新事
業創出)もあり発展可能性が高いことが指摘される。