抄録
本研究は,経済成長における貿易の役割について,長期の世界データを用いて分析したも
のである。ここでは,経済成長を示す指標として,1 人当たりの実質GDP の相対値を用い,
貿易を示す指標として,純輸出率と貿易率を用い,それぞれの相関係数を計測した。結果と
して,純輸出率と相対所得との関係は非常に弱い正の関係で,これらの1 階差分については,
若干の正の関係が見られた。貿易率と相対所得との関係は若干の正の関係が見られたものの,
これらの1 階差分では,負の関係となった。これらから,開発経済学に見られる「輸出工業
化戦略」および伝統的な貿易論で見られる「貿易の利益」はいずれもデータから読み取れる
ことが判明した。しかしながら,アジアを中心とした個別経済で確認すると,輸出工業化戦
略が成功した経済は,日本,韓国,台湾および中国と非常に限られていることが分かる。た
だし,これらは,純輸出率と相対所得の1 階差分では,相関が見られず,世界データとは異
なる結果となっている。また,これらの4 つの経済およびマレーシア,タイ,インドは,貿
易率との相関も高く,貿易の利益が得られていることが判明した。