日本建築学会計画系論文集
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スナンカバウの居住地域におけるルマガダンの方位の研究 : バリアンガンとバルアブキクでの民家配置の分析に基づく集落の構成原理
ナカムラ セルマ
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2000 年 65 巻 531 号 p. 149-156

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抄録

本稿は、インドネシア国、西スマトラ州のミナンカバウ族の居住地域における伝統的な家屋・ルマガダンをとりあげ、家屋形式と農村集落の構成を明らかにする目的がある。既往研究でのルマガダンの分類は次のような方法であった。a) 「ラル」と呼ばれる区域での分類(たとえばラル・ボディーチャニアゴやラル・コト・ビランと呼ほれる2つの「ラル」における分類方法), 「ラル」とは政治的なまとまりを意味する現地語で, "harmony"と訳されている。b) 1の流域での分類(1つの流域に1つのルマガダンの形式があるとする分類) 本稿では、集落の区分での分類や流域ごとの区分による以上2つの分類方法の問題点を取り上げている。そこで、ミナンカバウ地域の幾つかの村からルマガダンを具体的に抽出し家屋形式の分類を行い、ルマガダンを特徴づける重要な幾つかの形態的な特色を示した。次に、バリンガンとパルアプキクの2つの集落におけるルマガダンの特色を、家屋の配置状況、地形の特徴、集落の建築的な構成要素から分析した。調査の結果、口伝によるルマガダンの棟の方向のルールは地域性による変化を示す事が分かった。ミナンカバウの方位に関するあらゆる既往研究では、事実とは異なるような結論が出されている。つまり、データは、おそらく異なる集落間での口伝のデーターから採取されたものであり、それらの口伝のデーターは全てのミナンカパウに対して当てはまるという、間違った捉え方をしている。ミナンカパウ族は典型的なオストロネシアの方位システムを使う。つまり、ミナンカバウ族はいろいろな方位システムルを重ねあわせて建築などに用いている。本稿はこの重ねあわせの性質を明らかにしている。基本的には地方性・地理性のルールと方位システムを同時に使うが、矛盾が生じる場合がある。その時は、地方性のルールが基本的な方位システムより強く現れる。また,山頂へ向かう古い聖なる方向と新しいMeccaへの聖なる方向とが重ね合わされて用いられる場合もある。少なくとも30のミナンカパウの村には、口伝のルールの地域による変化とは別に、確実な共通の方位のルールがある。それは以下のとおりである。a) 1つの集落において、ルマガダンの棟は概ね、近くの川に対して平行に配置される。b) 集落中央の街路はこの川に平行なので、ルマガダンの棟は殆どが街路に平行になる。c) ルマガダンから山へ至る軸があり、ほとんどのルマガダンの棟は山頂方向に向いている。このことから、パルアプギクでのルマガダンの棟の方位の特性に古代の山岳信仰との関連性があることを示すことが出来る。

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© 2000 日本建築学会
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