日本建築学会計画系論文集
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タイ国における筏住居の類型化と住様式分析
デンパイブーン チャウィーワン東樋口 護松田 博幸橋本 清勇
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2000 年 65 巻 533 号 p. 173-180

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抄録

1.序論 Introduction: タイ国ではかつて特にアユタヤ王朝期からラタナコシン王朝期にかけて筏住居のライフスタイルは最も一般的なものであったが、現在ではその数は非常に少なく、1995年時点では8の州で確認されているのみである。しかしUthaithani、Kanchanaburi、Noggbualampoon、Lampoonでは筏住居が現在も利用され、さらに観光目的のリゾートやレストランとしても活用されている。これらの事実を鑑み、本論文は、300年前から始まるタイ国の水生居住を再評価し筏住居の新たな活用方法を模索するための基礎的資料を得る事を目的としている。具体的には、1995〜97年のフィールド調査、Phitsanulok州75世帯、Uthaithani州120世帯へのアンケート調査および詳細なインタビュー調査、建物・集落の観察調査等に基づき、水辺居住における筏住居の特徴と役割を明らかにするため経験的定義と類型化を行い、水上居住と陸上居住両方に存在する典型的なライフスタイルを見出し、タイ近代化によるそれらの変容を明らかにする。2.筏住居の類型的分析 Typologil Analysis of Raft Houses: 既存文献とフィールド調査に基づき筏住居を「伝統的タイ建築様式で水上の筏構造の上に建てられた建物」と定義する。また筏住居の屋根、壁、床、基礎に着目し、筏住居の建築的類型化を行った結果、屋根で6つ、壁で3つ、床で1つ、基礎で5つの建築的パターンに要約することができた。3.筏住居の機能的類型化 Typology of the Functions of Raft Houses: 次に筏住居という建物の役割に着目し、フィールド調査の結果から機能的類型化を行い、そして住居用、店舗付注居用、漁業用、商用&レクレーション用という機能的類型を見出すと共に、その分布状況、建築的特徴などについて明らかにした。4.筏住居の現状〜ウツタイタニとピサヌロークでのケーススタディ Current Status of Raft House Settlements-Case Study in Uthaithani and Phitsanulok: ケーススタディとしてウツタイタニとピサヌロークを取り上げ、アンケート調査およびインタビュー調査、現地観察の調査結果に基づき、筏住居の分布状況、居住者の社会経済属性、ライフスタイルおよび意識を明らかにした。特に、ウツタイタニにおける農業・漁業ベースのライフスタイル、ピサヌロークの商業ベースのライフスタイルという性格の差異、それに伴う筏居住や水汚染に対する考え方の違い等について明らかにした。5.人・水・土地の共存 Coexistence of Mankind, Water and Land: 先述のアンケート・インタビュー調査、現地観察調査、さらに筏住居が現存する他の地域での観察調査等の結果から、筏住居を媒介とする人・水・土地の共存関係が見出せる。ここではウツタイタニ、ピサヌローク、カンチャナブリでの筏住居の現状分折から、各地域ごとに人と水・土地の関係を示すとともに、近代化が進み陸上交通が普及しつつある中で、タイの伝統的ライフスタイルである商業・農業・漁業、炊事・トイレ・入浴等の生活の仕方、娯楽等が、筏居住と水上・陸上の共存に依存している関係にあり、それらが継承されている事を示した。6.結論 Conclusion: 筏居住の物理的類型とライフスタイル、周辺環境との間には密接な関係がある。特に、近代化の中で住居が陸上化した後も、筏居住との間に共通点があり、タイの伝続的ライフスタイルが継承されている事が推測される。また水環境との共存関係、都市化の程度などにより、地域ごとに筏住居の状況が異なる事も明らかにした。

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