日本建築学会計画系論文集
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投資効率とCO_2排出量を指標とした独立住宅の光発電一体式屋根形状の二目的問題の研究
隋 傑礼宗本 順三松下 大輔
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2006 年 71 巻 605 号 p. 63-70

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抄録
現在、建材と太陽電池モジュールが一体となった、光電一体式屋根(Roof Integrated Photovoltaic System:以下RIPV)は、戸建て住宅分野で普及しつつある。それは、RIPVの建材としての導入の容易さ、コストの低下等の背景もあるが、今後の更なる技術革新により、ライフサイクルにおける光熱費の削減による個人(世帯)の利益と、省資源すなわち排出CO_2削減による社会の利益の、両者に貢献する可能性があることが要因であるためである。このことは、個人がRIPVを導入する動機を高めるとともに、我が国の政府や自治体が費用補助や助成等によるRIPV導入の後押しを積極的に進める要因になっている。光電池の性能は、設置方法や数量、モジュールの種類、立地場所の緯度、気候等に左右されることか知られているが、RIPVは特に、屋根建材と一体であるため、屋根形状の属性は、RIPVの性能に決定的な影響を及ぼす。これまで筆者らは、地球環境に大きな影響を及ぼす、住宅分野のLCCO_2を低減させるための方法の研究を継続的に行ってきた(文献8)。RIPVの発電特性に注目すると、日本列島では、南面し、かつ立地場所の緯度+5度程度の屋根が最大の効率を引き出すことが知られているが、環境負荷すなわちRIPVのトータルなCO_2排出量に注目することにより、RIPVの建材使用量や発電エネルギーを一元的にCO_2に換算して扱い、排出CO_2を低減させる優秀なRIPVの屋根形状を求める研究は見られない。多様な形態的可能性が考えられる屋根形状について、RIPVの投資価値を表す、初期投資や削減光熱費、補助金等から計算される個人の費用と、RIPVの地球環境負荷を表す排出CO_2の関係を調べ、両者の望ましいバランスを求める研究は重要であると考えられる。本論では、簡単のため幾何学的な屋根モデルを作成し、異なる地点(札幌、東京、那覇)における太陽軌道を計算機上でシミュレー卜し、多点探索を行う進化計算を用いて屋根形状について、投資価値と排出CO_2を指標とした二目的最適化を行うことで、投資価値増大と排出CO_2低減、すなわち個人的利益と社会的利益の両者を高度に満たすRIPVの代替案を得ることが目的である。結果として、3つの立地場所に対し、それぞれ投資価値と排出CO_2についてのパレート曲線が得られた。RIPVの屋根形状について、投資価値と排出CO_2は、トレードオフの関係にあることを、両者を二軸とする散布図により示した。那覇と東京においては特に、南面の屋根がより大きく、より多くの光電池に覆われているものが、投資価値増大と、排出CO_2低減に、より貢献することが明らかとなった。投資価値を最大化するには、各立地場所における従来理想的とされてきた屋根面傾斜角度よりも小さな角度が優秀となった。排出CO_2を最小化するには反対に、各立地場所における従来理想的とされてきた屋根面傾斜角度よりも大きな角度が優秀となった。
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© 2006 日本建築学会
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