抄録
濃尾平野のほぼ中央部を東西に走る二つの計測線を設定して長周期微動の計測を行ない, 波形解析の結果に基づいて平野的規模に於ける地盤振動特性を主として, 地盤の地層構成, 伊勢湾に於ける波浪特性・波動伝達特性・ブーゲ異常による影響等の関連において考察した。長周期域に於ける此迄の計測例は少なく, 地盤の深い所に於ける地質地盤的資料も乏しい現状で, 断定的な結論は慎みたいが, 未解明の問題に対する第一段的調査研究として得られた結果を以下に纒める。(1)フーリエ解析により得られた結果を, 周期域毎に, 短周期域(0〜1秒), やや長周期域(1〜2秒), 長周期域(2秒以上)に類別して見ると, [○!a]短周期域の卓越周期は, 水平二成分共, 西部で0.60〜0.67秒で測線毎の沖積層厚さの変化に良く対応している。[○!b]やや長周期成分は, 1.5〜2.0秒で卓越を認め, これは, 成層地盤の伝達特性の解析結果からは, 沖積層より深い地層からの反映とも思われるが, 参考にした伊勢湾の波浪特性に基づく定常波説とも同じ周期域に対応し, 固有振動か, 震源の特性か, これからは断定し難い。[○!c]長周期域の卓越周期は, 両測線に於いて, 概ね, 3.0〜5.0秒の間であり, その変化の模様は濃尾平野の傾斜地形にほば対応しているようである。濃尾平野南部の名古屋市内での過去の計測例に依ると, 4秒前後の値が報告されているがこれを中に含む。(2)東西・南北の両成分の特性は, 両計測線, 短・長周期域にわたってほぼ等しい卓越周期を示しているが, フーリエ振幅は若干変化する。これらから地盤性状に巨視的な異方性を認める事は不可である。(3)名古屋市内で1サイトではあるが, 一日の隔時計測に依る卓越周期, フーリエ振幅の変化は殆んどない。(4)濃尾平野の長周期域に於ける卓越周期として測線上で3〜5秒の値が深い基盤上の成層の固有振動と考えると, 1/4波長則より略近的に0.9〜1.5kmの深さに基盤らしきものを想定出来, 基盤深さの変化に基づくブーゲ異常の計測値から推定される基盤深さは1.1〜1.7kmとほぼ同じ次元を有す。この結果を直接関係づける事は困難であるが将来の検討事項として指摘したい。(5)やや長周期成分の卓越周期として1.5〜2秒の範囲は第四紀洪積層の100m前後に関する波動の伝達特性から求まる一次周期と同じ値域を有す。尚, 現在, 同時三成分計測を実施し, 又, 同一サイトでの隔週長期定点計測を継続中であり, 機会を改めて報告する予定である。