日本建築学会論文報告集
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沿岸漁村地域に於ける複合集落の類型的性格について : 志摩・熊野灘沿岸地域の整備計画に関する調査研究・その II
宗 正敏宮崎 隆昌
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1978 年 271 巻 p. 95-103

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抄録

複合集落単位類型は集落の立地条件(漁場・漁港・市場・交通)と居住形態(規模・密度・施設・社会集団)の相関関係から考えられたものである。更に漁村集落としての「まとまり」に含まれる個々の「かたまり」の性格によって組合わさり, 大字単位, 旧村単位に於いて複合集落として一体的に連関しながら地域変動を誘引している事に着目して区分した。それは(1)居住地の面積的な制約, (2)施設の立地と利用に於ける充足度, (3)社会的交流の頻度や集団の形成の度合, (4)漁業生産力, 労働力の容量, (5)漁業資源量と漁場環境の度合, (6)漁場や市場との交通手段や距離, 等の許容する範囲に於いて複合し集落内部の単位の組合せ方を変えて地域変動に連関している。複合集落の4つの類型は同時に基礎集落の「浦」「里」「むら」「まち」の類型的区分を含んでおり, 基礎集落は何らかの型で周辺集落との複合の機縁を有している。一方, 漁港都市的な市街地漁村も内部ににいくつかの複合集落単位を包含している。それは漁業地区としての他の市街地とは異なった「かたまり」としての性格を強く有している。また更に複合集落単位の形態的, 機能的特性としては次の事が考えられる。(1)住居や集落の中に生産と連続した空間を持つ。(2)漁家の中で季節的, 時間的に副次的な生業を営む。(3)いくつかの生産集団が同一基盤に形成され構成員が重複している。(4)いくつかの基礎集落を包含している。(5)血縁的結合(ミウチ)・地縁的結合(セケン)に二元化した付き会い方をしている。(6)生産領域の形成が狭域(自前圏)と広域(出張圏)に二分される。(7)生活縁としては世古・組・班があり, 生産縁としては漁業協同組合・共同組合やジゲ組織がある。(8)血縁・地縁的結合を超えた機能集団が形成される。(9)労働力や漁船の移動がみられ, 広域的な生産圏, 市場圏が形成される。この様に複合集落単位は沿岸漁村地域に於ける変動が生成し収斂する物的な漁村環境である。今後の沿岸漁業や漁村は複合化し, 立地条件を克服すべき多様な組合せ方によって, 生産基盤や生活環境が整備されなければならないだろう。それは単なる統合や, 合併ではなく, 前述の計画課題や計画単位を見い出して行く方向にあると考える。複合集落単位の設定は, (1)全産業的基盤の総体的な整備を前提として競合するもの同士を対立から, 協業・分業へと移行させる。(2)従来からの生活様式を重視し, 地域住民の伝統的な環境(水系・後背林・海岸・海面・海底等)保全・管理・利用方法を再評価する。(3)施設立地は(分化-集中-再統合)というプロセスを経て複合集落単位毎に検討された組合せによって, 複合的施設を計画する(自前圏)(4)沿岸漁村地域の農林畜産業の再生を進め, 世帯・集落経営の複合化・多元化を考える。(5)日常的に往来が可能な範囲の集落間に於いて役割分担や, 連係を深めていく(出張圏), (6)血縁的地縁的集団と融合した機能集団(生活縁・生産縁を通じて)の形成を進める。等々の課題に沿って具体的なパターンを見つけ単位の自律性を高める方向で行う必要がある。また本研究は沿岸漁村地域を対象としたが, 離島や半島漁村については今後の課題とする。それは最っとも緊急な局面を迎えているのは沿岸漁村であるとの認識によるものである。沿岸漁村地域には発展都市化や停滞衰退化のいずれの方向にも偏していない中間的性格をもった集落が多く存在している。それらが複合集落としての性格を強めることによって沿岸漁村地域全体の生活環境が整備されるであろうと考えている。又, 更に漁村固有の生活様式・生産方式を維持しながら, 漁村に於ける社会集団の基本的性格に沿って, 個々の生活単位を複合化していく事で(生産-流通)が広域的で大都市市場圏との結びつきが強まる中に於いても, (生活環境-社会集団)は在地構造との関連を保ち, 対応し展開していく事が出来ると考える。研究は今後の事例的な研究を積み重ねて行くと同時に個々の集落に於ける生活環境整備や漁家住宅の改善の具体的な方途を探求しなければならないと考えている。

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© 1978 一般社団法人日本建築学会
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