日本建築学会論文報告集
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都市内農地保全に関する基礎的研究 (その 3)
日下 正基
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1978 年 271 巻 p. 105-111

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抄録

以上, 行動と対応させながら農地観・農業観を中心に農家意識の変遷を分析してきた。要約すると, 森河内地区の場合, 高度輪作地帯として古くから積極的な農業経営が行なわれてきた為, 借地による経営規模拡大例にもみられるように, 農地は生産手段としてみなされてきた。その後市街化の進展にともない, 農地を商品視, さらには財産視し脱農していく層もみられるが, 他方それを農業継続の補助手段として利用しながら積極的な農業経営を行っている層も多い。しかし脱農層に農地を商品視, 財産視する傾向が若干強いとはいえ, 両層とも最終的には農地を家産+財産視しており, 農業生産と結合して形成されてきた農民的農地観がみられる。他方農地からの収入では生計を維持し得ず, 早くから兼業化が生じていた小曽根地区においては, 農業経験のない層も多く, ごく一部を除いて農地は商品さらには財産として処理され, 最終的形態においても家産視する層は少なく, 商品視, 財産視する層が多く, 農地は農業生産とは完全に切り離され, 単なる土地にすぎなくなっている。しかし両地区とも, その理由こそちがえ自宅近くの農地・土地を重視する傾向は共通しており, そういった農家の保有性向を充分考慮した土地利用計画, 農業集落からの計画が必要とされよう。具体的には, 森河内地区の場合, 農業就業者間の年令差が大きく, 彼らが農業からリタイヤーする時期は様々である。その場合, 近くリタイヤーする高年令層に貸農園, 休日農業等一応農地形態で残そうとする傾向が強いとはいえ, 相続時における農地売却あるいは老後保障の為の転用自営は必至であり, かれらの転用自営用地条件と残存農家の残存農地条件とが同一である以上, 農業的土地利用と都市的土地利用との競合が長期的に生じる事となり, 生産基盤条件の悪化等, 残存農家への悪影響は必至となる。従って農地ごとの土地利用形態の変化方向, 即ち貸農園, ホビー用農地, 転用自営用地, 売却地等の変化方向を把握し, 土地利用間の調整を図ると同時に, 借地といった農業的土地利用の可能性の検討等も必要となろう。小曽根地区の場合, 水稲単作地帯で市街化による水利条件の悪化は農業継続上致命的なもので, 農地集積地以外での農地残存は極めて困難な状況下にあり, 農地集積地以外では農地保全よりもむしろ, 市街化の整序化を考えざるを得ない。その場合, 小作地-貸付地が市街化の正常な方向を歪める事例が非常に多く, 小作契約関係の把握・調整が必要となる。また農地集積地においては, 労働力不足から農地かい廃が予想されるわけであり, 森河内地区と同様, 農地ごとの土地利用変化方向を把握・調整すると同時に, 残存農家への農地集積, 即ち借地農業の可能性の検討等が必要となる。本研究は大阪大学大学院生, 中塚基文氏との共同研究の一部をまとめたものである。

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© 1978 一般社団法人日本建築学会
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