抄録
以上, 標準的な小・中学校並びに防音化工事のため空調を施した教室の実態調査より, 冬期暖房時の教室内環境について次の結論が得られた。(1) 今回測定した非空調教室は開放型ストーブを用いており, これが測定対象地域の標準となっている。(2) 開放型ストーブを使用する一般の教室では, 始業時を除いて居住域の温度は15〜18℃である。(3) 空調設備のある教室の室温は今回の調査では(2)の教室に比べてかなり高めである。また前記の文献(5)でも測定値はすべて20℃以上で平均23.3℃と高めの判断ができる報告がなされている。これは設計の際に一般事務所に要求される条件が適用されていること, また例えばVAV方式が採用された場合その適用法が不適切であること, さらに空調環境下における児童・生徒のための温湿度の設定, 運転条件について理論が確立されておらず現場の教師も不慣れであることなどが原因と考えられる。(4) (3)の空調教室の室温に比較すればかなり低いと判断できる一般的な小中学校における上記(2)の室温に対し今回の調査では児童・先生から特に問題は提起されていない。そこで成人と児童・生徒との代謝量の違い, 体温調節機構ならびに体力増強, 保健管理などを配慮した上で, 児童・生徒の知的活動のための至適環境条件が今後討議されるべきであるがそれは本報の範囲ではない。(5) 開放型ストーブをつけた場合, または吹出風量が少ない場合, 上下温度差が大きくなり, エネルギーの無駄使いであり, サーキュレーターをつけるなどして有効に利用すべきであろう。これにより例えばストーブをつける時間を短くすることができ, またそれによりCO_2濃度を低くおさえることができるであろう。(6) 開放型ストーブを使用する教室で, 窓・扉の開放がない場合, CO_2濃度は1時間余りで5000ppmを超える。休み時間毎に全開口部を開放する場合には, 濃度上昇は3000ppm以内になると考えられる。(7) 空調された教室でのCO_2濃度は, (6)の教室よりかなり低く良好である。(8) 教室内のCO_2濃度, 絶対湿度の上昇過程は, 適当な換気回数を仮定し, 教室内の発生量が一定であり, 瞬時一様拡散するとした計算法でほぼ説明できる。(9) CO濃度は今回の調査では, 一校のみで最高8.3ppmを記録し, その他では最低検出濃度4ppmに達するデータは得られなかった。(10) 浮遊粉じん濃度は, 各校共基準値以下であったが, さらに特別教室等での測定が必要であろう。またさらに粒径分布等で人体への影響をきめ細かく探るべきであろう。なお, 下足管理が室内粉じん衛生環境にかなり影響する。(11) 教室の空調設計では, 1) 在室率0(特別教室利用)の時間数が, 全授業のほぼ1/3を占めること。2) 休憩のあること。3) 人体からの発熱・発生水蒸気が多いこと。4) 代謝率や耐寒性に関する成人と児童との相異。5) 知育環境としての至適性。等を考慮して換気量, 温湿度条件, 温度制御法, 空調方式を決定することが必要である。本研究は「教育施設等防音工事調査委員会」の行なったもののうち, 筆者らが担当した部分である。また本研究の1部は, 昭和55年度, 昭和56年度学術講演梗概集(日本建築学会)に発表した。