集落の地理的条件のいかんにかかわらず, 個々の民家の家屋配置に共通することとして, 次のような実態, および, 実態と要因の関係が明らかとなった。(1)主屋に対する付属屋の相対的位置は, 下手であることを原則とする。ただし, 位置が上手として定式化している少数のものを除く。(2)このことは, 主屋の向きの方位とは関係なく一定である。(3)上手-下手の関係は主屋における一番座の位置によって定まる。一番座側が上手, その反対が下手となる。(4)従って, 一番座の位置が向って右の場合には, 付属屋は主屋の左側に, また, 左の場合には付属屋は右側に配されて, 主屋と付属屋の相対的位置関係は, 一番座の位置によって全く左右対称的に異なる。(5)敷地の間口および奥行が或る範囲までは, 主屋の上手側面および前面の空間と, 付属屋が配置される下手および背面の空間の, 両方を考慮して主屋の位置が定まる。(6)敷地の間口が或る範囲を越すと, 主屋の上手側面の空地巾は一定化する。奥行の場合も同様で, 主屋の前面の空地巾は一定化する。この場合, 上手側面では5m前後で共通しているが, 前面は集落により差がある。(7)従って, 敷地形状が横長の場合には下手の空間が, また, 縦長の場合には背面の空間が, 敷地の間口あるいは奥行の増加に伴って, 夫々大きくなっていく。(8)このことによって, 付属屋の位置は敷地形状の影響を受け, 主屋の下手であることを原則としながらも, 横長の敷地の場合には側面に, また, 縦長の敷地の場合には背面に配置されるものが多くなる。敷地が狭いものほど, それが著しい。(9)主屋がRC造の場合, 木造と比較して便所および風呂場が, 別棟として配置されるのではなく, 主屋内に設けられるものが多い。(10)付属屋の種別による主屋との位置関係では, 風呂場が排水条件によって分散する以外は, 種類によってほぼ一定の場所であることが多い。以上の結果が, 民家の集合である集落の建築景観に, どのような関わりをもつかをまとめてみると, [○!イ]同一の集落で主屋の向きが異なる場合, その方位が多様なほど, また, 集落内の分布が拡散するほど, 景観としては混然としたものになる。[○!ロ]主屋の向きが同一でも, 一番座の位置が異なる場合, [○!イ]の場合と同様に, 異なるものの戸数と集落内での分布によって, 程度の差こそあれ景観に影響を及ぼす。[○!ハ]主屋の向きが同一でも, 敷地形状で横長と縦長が混在している場合は, 景観の統一性を乱すことになる。[○!ニ]主屋構造で木造とRC造が混在している場合は, 建築景観としてそれ自身の立面的形態が異なるだけではなく, 付属屋の量も異なるので, 統一性が欠如する。[○!ホ]馬および牛小屋は主屋の下手前面に配置されて目立つので, これらの小屋の有無は景観に影響を及ぼす。[○!ヘ]集落内の特定の場所に対する信仰によって, 家屋配置は強い影響を受け, 当該集落の統一的な建築景観が形成される。以上の検討と考察は, 筆者らがこれまで「沖縄の集落に関する研究」という主題で発表してきた一連の報告の中で, 民家の家屋配置に関するものを, 研究の方法および考察の両面で改善し, さらに新たな検討の結果を付加したものである。
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