近年、アラブ世界ではアメリカ合衆国に対する敵対感情が広まる傾向が見られる。特に2001年9月11日にニューヨークとワシントンを襲ったテロは、アラブ世界に存在する反米感情を強烈に印象づけた。この事件はアメリカ合衆国の歴史のなかでもっとも大勢の犠牲者をだした「アメリカ本土への攻撃」であったが、この事件の遠因となったアラブ世界における反米感情はどこからきたのか、また、事件後にその動向に変化はあるのか。アラブ世界における反米感情の原因の追究は、現在の国際関係研究の重要なテーマとなっている。反米感情が生まれた理由としては、文化や宗教や文明の違いによるものであるとする説や、政治体制や教育制度に関係しているという考えもある。しかしながら、このテーマの本格的な解明のためには、アラブ地域の国々が有する固有の論理から理解していく必要がある。また、反米感情の推移は、現地の世論の動向により把握されなくてならない。著者は、湾岸諸国会議(GCC)加盟国に含まれる9つの都市でアンケート調査を実施し、人々がアメリカ合衆国をどのように見ているか、反米的な感情が存在するのか否かのデータを収集した。その結果をふまえ、反米感情の背後にある理由を考察することが、本研究ノートの目的である。合衆国の中東政策の分析だけを重視し、アラブ諸国の人々の「感情」に踏み入ることのなかったこれまでの研究の欠落を埋めるのが、本稿の目的である。