抄録
はじめに 中山間地域等直接支払制度は、中山間地域等の農業生産条件の不利な地域において、耕作放棄の発生を防止し多面的機能を確保する観点から導入された制度であり、結果として棚田保全にも貢献しているものと考えられる。1 中山間地域等直接支払制度の概要(1) 目的・中山間地域等では、耕作放棄地の増加等により多面的機能の低下が懸念されている。・農業生産の維持を通じて、多面的機能を確保する観点から、農業生産条件の不利性を補正する中山間地域等直接支払制度が平成12年度から導入された。(2) 制度の仕組み・対象農用地は、特定農山村法や山村振興法、過疎法等で指定される地域の農用地区域のうち急傾斜農用地や小区画・不整形な田等の農業生産条件が不利な農用地。・対象行為は、耕作放棄の防止等を内容とする集落協定等に基づき、5年間以上継続して行われる農業生産活動等。・農業生産活動等を行う農業者等に対して、平地地域との生産コスト差の8割相当額を交付金(例:急傾斜田21,000円/10a)として支払う。2 直接支払制度実施状況(1) 実施状況・平成14年度の中国四国農政局管内の実施状況は、対象農用地を有する467市町村の91%の426市町村で、集落協定9,750協定、個別協定185協定が締結されている。・協定締結面積は、14年度までに策定された市町村基本方針に定められた対象農用地面積の合計の約7割に当たる92,946ha(うち田69,746ha)となっている。(2) 集落協定の活動内容・集落協定に位置付けられている活動の中で、「農道管理」「水路管理」「農地法面点検」等の農地の維持管理に関わる活動の割合が高い。・協定の締結により「話し合いの復活・回数の増加」したものが80%、「共同作業・機械の共同利用の復活・回数の増加」したものが36%などとなっている(H13年度中間点検結果)。3 取組事例(集落協定による共同取組)(1) 集落営農システムの確立に向けた取組(高知県梼原町) 後継者が中心となって遊休農地や高齢化により農作業が困難となった農地の基盤整備(せまち直し)の実施により乗用機械等による耕作が可能となり、農作業の効率化、受委託化による集落営農システムの構築を図った。(2) 棚田オーナー制度による都市との交流(鳥取県若桜町) 棚田百選に選ばれた棚田を利用して、アイガモ農法を実施したり、棚田オーナー制度及び棚田保全ボランティア隊の受け入れを行い、都市との交流活動を行っている。(3) 放牧による農地管理の省力化に向けた取組(島根県大田市) 耕作放棄の懸念がある農地に電気牧柵を設置し、和牛を放牧する「出前放牧」の実施により農地の管理を省力化し、耕作放棄の防止を図っている。