抄録
名古屋市には東部の丘陵地帯を中心に、かつては多くのため池が存在した。昭和30年代後半以降の開発に伴い、ため池数は激減したが、現在でも113のため池がある。同市は1973年に名古屋市ため池環境保全協議会を結成し、市内のため池の調査を行って、治水や環境面での評価が高い96のため池について、環境整備基本計画を策定した。同時に、ため池の改廃や改修も協議会での要検討事項とし、1992年にはため池保全要綱を策定した。名古屋市はこのように、全市のため池を視野に入れて、ため池の保全に市をあげて取り組んでいる。そして、名古屋市のため池の特色は公有化された池が多いことで、このことが市による保全を推進している。ため池の公有化は土地区画整理との関連が深く、名古屋市の開発はほとんどが土地区画整理によっている。具体的には、ため池の底地と同価値の宅地とが交換されて、ため池が公有化される。少なくても43の公有池は土地区画整理によって公有化されたと思われる。この他、買収や寄付によって公有化されたとおもわれるため池も20ほどある。さらに、名古屋市のため池のうち、66池が公園として、54池が洪水調節池として活用されており、それぞれ市の緑地率の増加や治水に寄与している。以上のように、名古屋市におけるため池の活用と保全の取り組みは、都市化地域におけるため池の保全に際して、参考となる事例である。