日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
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北日本にける2001年7月下旬からの冷夏への移行に関する事例解析
*加藤 内藏進野林 雅史
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p. 154

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抄録
 1. はじめに 1990年代以降は,20世紀の中でも全球規模の温暖化傾向が顕著であったが,逆に8月になっても梅雨前線が本州から北上仕切れない年が多かった。しかし一方では,例えば2001年のように,本来なら日本列島全体を亜熱帯高気圧が覆うようになる7月下旬頃から(本来ならば,Ueda et al. (1995))の指摘したconvection jumpの起きる頃),東北日本で急に低温傾向へと転じる年が多く見られるようになった(例えば,図1の仙台における2001年夏の日平均気温の時系列参照)。但し,南西諸島_から_西日本では猛暑傾向が持続した。更に興味深いことに,7月のはじめ頃には平年よりも気温の高い状態を経た後,この様な冷夏傾向に変化するという特徴を2001年などは示している。 そこで本研究では,この様な気温の季節的経過の特徴が他の年についてもどの程度見られるのか,幾つかの地点の日平均気温の時系列を1971_から_1998年について解析した上で,2001年に関する地上天気図上の梅雨前線の位置や出現頻度,大気循環場などについて解析した。 2. データ等 日平均気温の時系列は,気象庁編集のSDPデータ(CD_---_ROMび収録)から抽出した。なお,「平年値」に関しては,カレンダーの日付毎に28年平均したものを5日移動平均して各日の値を得た。また,気象庁作成の「印刷天気図」の各層天気図,「気象衛星観測資料」中の半旬平均GMS上層雲量(2゜×2゜毎),「気候系監視年報」中の各年の月平均500hPa高度や海面気圧,及び,同じく2001年の半旬平均値(5゜×5゜格子)等を解析に用いた。 札幌における月平均地上気温の平年偏差の7月と8月との散布図によれば(図は略),1章で述べたような気温の経過が1990_から_1998年の9年間で6つの年について見られた。それらの年について日平均気温の時系列を合成すると,東北日本での暑夏傾向から冷夏傾向へのアノマリーの反転が,7月下旬頃にかなり急激に起きることが示された。 3 .2001年における日々の地上前線の出現状況 1日2回の地上天気図上の前線出現位置の時間緯度断面によれば(図は略),6月下旬以降,大陸側では熱帯擾乱なども含む対流活動域が華南付近まで北上に伴い(大陸の梅雨前線は南下して熱帯の雲域と区別がつかなくなる)九州付近に亜熱帯高気圧が北偏し,梅雨前線が北上,その後ゆっくり南下して西日本の南海上で活動を弱めるというイベントが何サイクルか起きるようになる。このような亜熱帯高気圧の北偏傾向に対応して,7月前半には,東北日本でも平年よりも気温の高い状態が持続した。しかし,7月下旬頃には,前線の北側にオホーツク海高気圧が強まり東北日本で気温が急激に低温傾向に転じ,更に8月前半になると,フィリピン付近から南シナ海の熱帯収束帯は逆に若干南下し,日本付近の梅雨雲帯自体も弱まった。 4. 7月下旬以降の東北日本での低温傾向への転換の過程 図は略すが,7月下旬の気温のベースの低下は,東シベリアの(高温)500hPaリッジと東方の海域(低温)のトラフとのコントラストに対応して明瞭になった地上のオホーツク海高気圧の形成に同期していた。このような場の転換は,総観的には,7月22日頃に_から_60N/130Eに発生した850hPaでの低圧部が南東進して24日過ぎに140E以東に進むと同時に,50N/130E付近に高圧域が発達(ゆっくりとした移動),このため地衡風的な北東風が強まり,東北日本は冷たい海域からの寒気移流が間欠的に強化された(図2)。この25日頃の寒気移流に対応して,より下層である地上付近のオホーツク海高気圧の中心示度が高まるとともに,東北日本で急に冷夏に転じた点が興味深い。 その後は,一旦気温が上昇しても,「平年値」程度までしか上昇せず,その後の何回かの同様な北東からの寒気移流による気温低下イベントが起こり,8月半ばまでの顕著な低温傾向を維持していたことが分かった。今後は,7月前半までの前線帯の振る舞いに関係した過程が,この章で述べた内容の背景をもたらす過程と何がしかの強い関係があるのか否か,等についても調べていく必要がある。
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