抄録
◆はじめに:夏季の東京都心域では,アメダス観測点の時間降水量を用いた解析から,近年における短時間強雨の増加傾向が指摘され(藤部 1998,佐藤・高橋 2000),レーダーアメダス解析雨量による統計解析からも,都心域ではその周囲に比べて強雨による総降水量への寄与が大きいことが示されている(澤田・高橋 2003:地理予63).雷雨などによる短時間強雨はきわめて局地性の強い現象であり,その空間スケールは一般に東京都心域よりも小さい.それゆえ,都心域内部における強雨の発現には気候学的な地域性のあることが十分想定され,その地域性は都心域における強雨の発現・変動機構を明らかにするための手がかりともなろう.本研究では,JR東日本が設置している雨量計の資料(JR降水量)とアメダス観測点の時間降水量(アメダス降水量)を用いることにより,周辺を含めた都心域における強雨の発現頻度分布と強雨域の挙動について解析を行い,都心域内部の強雨発現に関する地域性を提示することを目的とする.
◆資料:対象期間は1991年から2002年までの12年間であり,夏季として6月から9月を取り上げた.JR東日本の雨量計は鉄道に沿って約10km間隔で設置されており,都心域ではさらに短い間隔で置かれている.対象領域は図1の範囲であり,用いた観測点数はJR降水量(●)が48地点,アメダス降水量(▽)が32地点の合計80地点である.JR降水量は,5分間値に基づいてアメダス降水量と同等の1時間値に積算して解析に用いた.なお,JR降水量には対象期間を通してある程度のデータ保存漏れがあり,そのため以下のような扱いをした.まず,アメダス観測点およびデータのあるJR観測点のすべてにおいて降水を観測していない(0mm)場合には,データのないJR観測点の降水量もすべて0mmとみなした.1地点でも1mm/h以上の降水が記録され,その時刻におけるデータのないJR観測点が2割を超える(10地点以上)場合には,当該時刻の全データを集計からはずした.これにより,集計の対象となる時間降水量は,全体(35136時間=12年×122日×24時間)から6.15%(2161時間)少なくなっている.
◆結果:図1には,夏季全体(6月から9月)を通して求めた30mm/h以上の強雨の頻度分布を示した.都心域には,都心北部(赤羽),都心南部(品川)および京浜地域(弁天橋)を中心とした頻度の極大域が認められる.このような都心域における頻度の極大は,総降水頻度(1mm/h以上)には現れず,強雨の場合ほど明瞭になる.また,秩父山地から多摩西部を経て京浜地域に至る頻度の極大帯が認められる.図2は,都心域を通る南北断面について,30mm/h以上の強雨の発現総数と月毎の発現割合を示している.6月から7月にかけて京浜地域や都心中央で発現割合が大きくなり,8月になると都心北部において発現割合が急激に増加し,都心南部でも増加する.9月になると都心北部における発現割合は小さくなる.月ごとの強雨頻度分布図によると,京浜地域および都心南部における強雨頻度の極大域は,いずれの月についてもその北西_から_西方向から連なる強雨頻度極大帯の延長上に位置している.一方,8月に明瞭となる都心北部の強雨頻度極大域(図3)は,強雨頻度極大帯の北から北東側に位置し,強雨頻度極大帯とは直接連続していない.そこで,両地域における降水域の挙動を知るために,都心北部の赤羽と京浜地域の弁天橋について30mm/hを越えた事例を抽出し,降水のピーク時を基準とした時間降水量分布の合成図により降水域の追跡を行った.事例の抽出にあたっては,熱帯擾乱などによる広域的な強雨の事例を除くために,10mm/h以上の地点が全観測地点の30%未満である場合に限定した.この結果,京浜地域の弁天橋で30mm/hを越えた事例(7例)では,15mm/h以上の降水域を3時間まで遡って追跡することができ,その経路は強雨頻度の極大帯とよく対応していた.これに対して都心北部の赤羽で30mm/hを越えた事例(11例)では,15mm/h以上の降水域を追跡することができず,その近傍で発生発達した降水域であると考えられる. 以上のことから,京浜地域・都心南部と都心北部とでは短時間強雨の発生要因が異なっており,京浜地域・都心南部では関東山地から南東_から_東進してきた降水域が,都心北部では近傍で発生発達した降水域が主として強雨をもたらしていると考えられる.
図1 夏季(6月から9月)を通して求めた時間降水量が30mm以上となる頻度(%) 図2 30mm/h以上の発現総時数と月毎の発現割合に関する南北断面(上尾-大船) 図2 8月における時間降水量が30mm以上となる頻度(%)
