日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
会議情報

GAME再解析データを用いたチベット高原上の熱・水収支解析
*植田 宏昭釜堀 弘隆山崎 信雄
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 21

詳細
抄録
1. はじめにアジアモンスーンエネルギー・水循環研究観測計画 (GAME)強化観測が、1998年夏季モンスーン期に行われた。これらのデータを基に気象庁気象研究所においてGAME再解析(4次元同化)データが作成された。本研究ではGAME再解析プロダクトVer. 1を用いてチベット高原上における1998年5月から8月までの熱・水収支解析を行った.使用したモデルの空間解像度はT213L30(水平解像度640×320格子,鉛直30層)である.アジア域はチベット高原を含むので,η面(σ-pハイブリッド座標系)での解析を行った.計算には00UTCと12UTCを初期値とした24時間予報値(18_から_24時間平均)の水平風2成分(u, v),温度(T),比湿(q),表面気圧(Ps),短波・長波加熱率(QR)を使用した.2. 計算スキームη面での熱・水収支は以下の式で表される.正(負)のQ1は見掛け上の加熱(冷却),正(負)のQ2は見掛け上の凝結(蒸発)を示す.鉛直流による移流は新たに開発した以下の式を用いて計算を行った.またQRを用いる事により鉛直渦熱輸送フラックスが算定される. 3. チベット高原上での熱・水収支これまでプレモンスーン期のチベット高原上の加熱は、主に地表付近の顕熱加熱が乾燥熱対流によって対流圏の中・上層へ運ばれるとする見方が提出されてきた(Yanai and Li, 1994)。図1を見ると、西チベット(60_から_80E)では対流圏の上部まで正のQ1(_から_2℃/day)が存在しており、下層に正のQ2を伴っている。即ち対流活動に伴う凝結熱加熱が存在している。このことは、プレモンスーン期のチベット高原(特に西部)の加熱が「hybrid nature of メwetモ and メdryモ process」であることを示唆している。 4. まとめと課題今回紹介した研究は、プレモンスーン期の大気加熱に関し、季節変化の視点から従来とはやや異なる見方を提供している。モンスーンの成立過程において、チベット高原の大気加熱が重要なのか、それとも東南アジアを中心とする熱帯の対流活動がより本質的なのか、さらには夏のモンスーンの年々変動に対しての陸面過程と熱帯の大気海洋相互作用の役割など、今後の更なる研究が待たれる。 図.1 1998年5月の30-40NでのQ1, Q2分布。正のQ2は凝結に関連した水蒸気減少を示す。参考文献谷田貝亜紀代, 山崎信雄, 釜堀弘隆, 高橋清利, 植田宏昭, 青梨和正, 隈健一, 竹内義明, 多田英夫, 2000: GAME再解析について, 水文・水資源学会誌, 13, 486-495.山崎信雄, 釜堀弘隆 谷田貝亜紀代, 高橋清利, 植田宏昭, 青梨和正, 隈健一, 竹内義明 多田英夫, 福富慶樹 五十嵐弘道, 藤波初木, 梶川義幸, 2001:GAME再解析データの公開, 天気, 48, 45-49.Ueda, H., H. Kamahori and N. Yamazaki, 2003: Seasonal contrasting features of heat and moisture budgets between the eastern and western Tibetan plateau during the GAME IOP. J. Climate, 16, 2309-2324 .
著者関連情報
© 2003 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top