抄録
1.はじめに 足尾山地では,岩塊流など周氷河性斜面堆積物の存在が指摘されている(小疇,1977;山川,1981;田淵・原,1982;瀬戸,2001).しかしながら,凍結融解サイクルの頻度など,周氷河作用の有無や強度を推定するための基礎的なデータが少ない.そこで,斜面上の岩塊に温度センサーを設置して岩温を連続観測し,現在の凍結融解の頻度を明らかにした.また,このデータから最終氷期最寒冷期および最終氷期から後氷期に移行する時期における凍結融解の頻度を推定した.本発表では,瀬戸(2003)と同様に岩塊流を成因を暗示しない岩塊堆積地形と呼ぶ.2. 観測方法 本研究では,次の2地点で観測を行った.P1は北向きの谷壁斜面上部のトア(高さ約5m,幅約8m,奥行き約3m)である.基部には,このトアから剥離した岩塊が堆積している.尾根上の平坦部からは,約100m離れている.P2は,北向きの谷壁斜面上部に位置するトアが解体した岩塊(高さ,幅,奥行きは,各約1.5m)である.周囲には,板状の岩塊が散らばっている.尾根上の平坦部からは約10m離れている.岩温の観測には,(株)T&D製 RTA-52を使用した.センサは径2mmのサーミスタで,-20℃_から_+80℃の範囲では平均で±0.3℃の精度を持つ.サーミスタは,対象の岩石に2cm深の穴をあけ,岩粉混じりのシリコンを充填して固定した.測定間隔は30分とした.本発表で使用するデータの観測期間は,2002.11.30_から_2003.5.6である. 3. 結果と考察 最低岩温は-11.3℃(P2 1/30)で,最高岩温は,23℃(P2 5/4)であった.12月末_から_3月前半までは,P 1,2共に0℃以下である.岩温の振幅はP 2の方が大きい.観測期間中の凍結融解サイクルは,P1で33回,P2で30回であった.凍結融解サイクルが最多の時期は,3月後半で全サイクル数の半分以上が集中する.凍結破砕が最も効果的に起こるのは,-2℃_から_2℃を前後するときであり,この回数をEFTCとして数えている(Matsuoka,1990;Shiraiwa,1992).EFTCは,それぞれ,6回,2回で,3月後半に集中する.P1に比べてP2で岩温の振幅が大きいことは,相対的にP2の岩塊が暖まりやすく冷えやすいためと考えられる.これは,測定対象とした岩塊の大きさがP1と比べて小さく,尾根直下に位置するため,日射で暖められることが主な原因だと思われる.しかし,凍結融解サイクルは,P1とP2でほぼ同数で,EFTCはP1の方が多い.これは,P2では振幅は大きい反面,観測期間を通じて岩温が低いために0℃を前後する回数が少ないためである.岩温が0℃を前後し,時にはEFTCも見られ,また年周期の凍結融解サイクルが存在することから,岩塊の凍結破砕は,P 1,2ともに十分に起こると判断できる.次に,最終氷期最寒冷期および最終氷期から後氷期へ移行するある時期の凍結融解サイクルとEFTCを,それぞれの時期に現在よりも-5℃および-2.5℃岩温が低下したと仮定して数えた.この結果,現在では3月に集中する凍結融解サイクルとEFTCが,3月後半から4月前半にずれた.凍結融解サイクル数は,現在の方が多いがEFTCは,氷期の方が現在より,1.5_から_5倍の頻度で多く発生する. 4. まとめと今後の課題 _丸1_本地域の岩温には,日周期と年周期の凍結融解サイクルが存在する._丸2_本地域における岩塊堆積地形の形成プロセスの一部として,現在および氷期共に,凍結破砕は十分に起こると判断できる._丸3_氷期にはEFTCが現在よりも高頻度であった.今回の観測では,気温のデータと秋から冬にかけての岩温のデータが採取できなかったので今後,データを取りたい.参考文献:瀬戸真之(2003):足尾山地北部古峰ヶ原高原におけ る岩塊堆積地形の形成プロセス,地理予,63,254.
