日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
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漁業を取り巻く環境変化と漁業経営
*田中 史朗
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p. 36

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抄録
 本研究は、漁業の担い手が減少していく中で、高度かつ計画的に漁場を利用する主体として共同経営を位置づけ、それの存続・発展条件を体系的かつ実証的に解明したものである。 水産資源を保護し、良好な環境を保ち、漁業の担い手を将来にわたって確保しつつ産業としての漁業を展開していくには、これまでのように個別的かつ競争的に漁場利用を行ったのでは資源的にもじり貧状態となり、経営に行き詰ることは目に見えている。漁業者が等しく利用する権利を持つ漁場の性格からして、また、若年労働力が不足している現状から考えると、集団的かつ共同的にその権利を行使するほうが漁場の総合的・合理的利用による生産の極大化を図る上でも、過剰装備による経営悪化を回避する意味でも、さらには労働力を有効に活用するためにも望ましいものと考える。そこには効率性よりも平等性が、発展することよりも安定かつ持続的な経営展開が求められる。つまり、利潤追求の競争原理からの脱却と、漁業者が等しく共存できるための漁場利用、およびそのための漁業経営の質的転換が求められている。 従前の漁業共同経営に関する研究では、漁業民主化の実現手段として、また、貧しさからの解放を勝ち取る手段として、漁業共同経営の有効性を論じてきた。しかも組合自営漁業、漁業生産組合、任意の共同経営組織それぞれの成否・存廃に重点を置いた個別的事例研究に偏重し、漁業共同経営の発展段階的性格と意義付けの検討が弱かったように思える。 そこで本研究では、漁業共同経営の「生成、発展、変質・消滅」の展開プロセスに立脚して、そもそも共同経営をはじめた動機は何sであり、事業の継続・発展をはかる上での障害は何なのか、共同経営のメリットとデメリットは何であり、各段階にとどまる(停滞する)理由、発展・変質、さらには消滅していく原因が何であるのかを明らかにすることによって、各漁業共同経営組織の経営的特質と漁業共同経営の安定かつ持続的な展開を可能にする必要条件を提示したい。
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© 2003 公益社団法人 日本地理学会
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