日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
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岡山県勝山町の町並み保存事業の変遷とその課題
羅 燕娟*市南 文一
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p. 4

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抄録
1.はじめに  外国などの他地域の物真似ではなく、地元に固有の特徴を活用して地域振興をはかる試みが各地で実践されている。日本の町並み保存活動は高度経済成長期頃から活発化し、1996年の「登録文化財」制度の導入で一層拡充してきた。本研究では、岡山県の町並み保存政策の実態を把握し、勝山町での取り組みを検討する。県と勝山町役場で聞き取り調査を実施し、勝山町町並み保存地区で、その来訪者と居住者を対象に、アンケートと聴取調査を実施した。2.岡山県・勝山町の町並み保存事業 1985年度に始まった岡山県の「町並み保存地区整備事業」を利用して、勝山地区が、1985-89年度と1993-97年度に整備された。事業への補助率は、補助対象の事業費の2分の1以内で、民家・付属工作物などに係わる事業について県補助金の上限額が設定され、民家1軒当たりの限度額は200万円であった。2001年度までの補助対象事業費の総額は、1億円(うち、県費補助金は5千万円以内)であった。 さらに、1993年には、勝山町は独自に「町並み保存地区整備補助金」制度を創設し、2000年までに9軒の民家を修復し、今や勝山の町並みのシンボルになっている暖簾を約30軒について制作・更新した。1996年には、地区内の有志により、「町並み保存事業を応援する会」が発足し、空き家を観光客とのふれあいの場として整備し、無料休憩所「顆山亭」が開かれた。1999年からは「雛祭り」を開催しており、多数の来訪客で賑わっている。3.勝山町の町並み保存地区の土地利用・景観の変化    町並み保存地区の面積は約25.3haで、山本町、上町、中町、下町、中川町が重点整備地区(約3.3ha)となり、延長は約800mである。約120軒の民家が重点整備地区にあり、住民数は約300人である。町家の建築年代はおおむね明治時代以後である。外観は切妻瓦葺き下ろしと切妻瓦せがい造りの土蔵造りが主流である。また、連子格子窓造り、白壁、海鼠壁が新装なった町並みの魅力を構成する。旭川に面した敷地には、川沿いに石畳が続く高瀬舟の発着場跡、酒造場などがあり、清流と調和した景観が展開する。また、郷土資料館、武家屋敷のほか、寺院と神社が点在している。 1986年の重点整備地区の家屋の分布によると、町屋の約6割は店舗か店舗併用住宅であった。また、空き家は14軒で、専用住宅が4分の1を占めた。2002年では、専用住宅が4割で、駐車場は9ヵ所であった。店舗と店舗併用住宅を合わせると、約5割になる。1986年から2000年では、重点整備地区の家屋の配置に大きな変化がみられなかったが、旭川に沿った町屋の約3割が岸辺まで増築した。そして、2000年には町屋が17%減少した。2000年の専用住宅は1986年より増加したが、駐車場はわずかしか変化していない。また、店舗、店舗併用住宅と空家が減少している。 2002年11月、研究対象地域の家屋の現状を調査し、改変の状況を3分類した。重点整備地区内では、「改変なし、もしくは小さな改変」の町屋が5割以上で、これらの伝統的町屋が山本町と上町に集中している。約2割の町屋は「中規模の改変」で、多少の改造があったが、旧状を留めている。「大規模の改変」は約3割で、下町と中川町を中心に分布する。4.アンケート結果とその考察  勝山町は来訪者に町並み保存地区で2000年に聴取調査を実施した。筆者らがその結果を独自に集計したところ、「勝山町を知った契機」では、テレビ・新聞などの一般メディアが最も重要で、知人・友人の話などのような「口コミ」の宣伝効果も大きい。来訪者のほとんどが岡山県内からで、近くの真庭郡や津山市から夫婦や友人と自動車で何度も来る人が多く、湯原温泉への途中に短時間滞在する傾向もみられる。 また、筆者らは、勝山町並み保存地区の居住者のご協力を得て2002年に聴取調査を実施した。地元の人々は「静かで住みやすい」、「自然景観の美しさ」、「町並みと暖簾の調和」、「歴史的な雰囲気」に満足しているが、「活発な町並みづくり」の認識が意外に低い。これは、熱心な町並み保存運動が一般的には必ずしも十分に知られていないことの反映の一端であると考えられるので、住民相互の連携や情報の共有が一層必要である。 来訪者・居住者ともに、町並み全体や、武家屋敷、酒造場、飲食店などの個々の施設については満足度が高いことから、町づくりの評判は良い。アンケートでは若者の少なさを指摘する意見などがあることから、町づくりの一体感がやや欠けている感もある。したがって、住民の多様な意見をまとめながら、一層誇りある町づくりを持続していくことが課題としてあげられる。
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© 2003 公益社団法人 日本地理学会
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