抄録
1. 研究の視点と目的 戦後の急速な経済発展は都市を高密度化し、都心部を中心に中高層建築物を集積させた。しかし同時に、経済合理主義に基づく中高層建築物の林立は、都市の歴史的な空間秩序や景観を破壊するなど、新たな問題を生じさせている。 日本において、都市の中枢としての役割を果たす上で、都心部では機能更新に伴って、建築物更新は随時行われてきた。しかし、都市の個性が重視されるべき時代にあって、自然・社会・文化を反映した地域固有の歴史的環境をいかに持続させていくかは、都市空間の景観形成にとっても大きな課題といえる。 そこで本研究では、形態としての立体的な都市景観とともに、人々が都市景観を認識する際に、重要な視覚情報の1つとなる色彩に注目した。都心部の建築物および内部空間利用形態と色彩からみた都市景観について、地域性を踏まえつつ街路ごとに明らかにすることを目的とする。2. 研究対象地域 東西に河原町通_から_堀川通、南北に五条通_から_御池通に囲まれた、京都市都心部を研究対象地域とした。また、対象地域内の幅員15m以上で都心軸を形成する烏丸通と四条通、幅員約7mの一方通行道である三条通、新町通、仏光寺通を研究対象街路として設定した。 京都市都心部には、戦災をほぼ免れたなどの理由から、他の大都市と比べ、木造低層建築物(京町家)が多く残る。しかし近年、当該地域では建築物の老朽化や世代交代などにより、木造低層建築物から高層建築物への建替えが進行し、伝統的な既成市街地内部で、都市景観に大きな変化が生じている。3. 研究方法 まず、現地踏査と聞き取りにより、対象街路に沿った全建築物の悉皆調査を行い、空間利用の機能分類を行った。次に、色彩からみた街路別の景観の特徴を把握するため、全対象街路の建築物外壁色を測色した。さらに、四条通と仏光寺通の屋外広告物の測色を行った。測色は、マンセル値が表記されている色票を用いた視感測色法による。4. 結果 _丸1_烏丸通、四条通には大規模中高層建築物が集積し、業務関連機能・商業関連機能を中心として空間利用は多岐に渡っている。また、都心軸としての役割をも果たしている。他方、新町通、仏光寺通には、木造低層建築物である京町家を中心とした居住関連機能が卓越し、都心部の居住空間を代表する街路を形成している。また、三条通は烏丸通を境として、東は表通りとしての性格を、西は裏通りとしての性格をあわせ持った、市街地更新による新たな景観と歴史的景観とが対照的な街路となっている。 _丸2_京都市都心部における建築物の基調色は、街路に関わりなく、京町家に使用される聚楽色を中心とした低彩度のRed-Yellow系の暖色である。特に、新町・仏光寺通では、使用される色相数も少なく、低明度、低彩度の京町家独特の色彩が多い。他方、烏丸通、四条通では、使用色相数が増加し、高明度、高彩度の外壁色の出現頻度が高くなる。 _丸3_業務・商業関連機能が集積する四条通では、屋外広告物の地・図ともに、高彩度の原色に近い色が多数用いられている。他方で、居住関連機能が卓越する仏光寺通では、広告物数も少なく、白地に、黒・茶系統色による図が用いられ、街路の景観に比較的、統一性が感じられる。 都心部の居住機能が卓越する街路には、建築物の外壁・屋外広告物に自然・社会・文化・歴史を反映した地域固有の色彩が用いられている。一方、金融・保険機関などの業務・商業関連施設の立地が卓越する主要通りでは、地域固有の色彩は主要外壁色の基調色となっているものの、屋外広告物に用いられる色彩には地域性は考慮されておらず、企業アイデンティティーを示す原色に近い高彩度色が用いられている。このように、京都市の都心部では、色彩としては2極化した都市景観が観察される。