抄録
流域を覆う土壌やそこを循環する水は、環境変化のバロメータとなりうる。観光地化にともなう自動車の流入は、酸性雨や大気汚染につながる。また、宿泊施設の増加などにともなう排水の増加は、地下水の窒素汚染などにつながる。本発表では、瀬戸内海のしまなみ海道に立地する生口島の例を中心に、流域の土壌・水環境の現状と、多様な人為的インパクトの影響を紹介する。なお、ここでは主に山地流域土壌問題と沿岸流域の窒素流出に関して主に紹介する。
2.土壌侵食、酸性化、重金属蓄積
瀬戸内地域は気候的には乾燥傾向にあるため、人為起源の山火事が多い。瀬戸内の山火事流域(広島県西部大野町)での土壌pHのプロファイル変化をみると、山火事以前の値に比べて、土壌中の有機物量も少なく未熟土壌であるとともに、酸性化傾向であるといえる。山火事後2週間で、表層での中和傾向があらわれ、塩基の無機化の影響がみられる。2ヶ月後の7月には、pHは表層で5.3程度まで低下し、1年後、1年半後と、プロファイル全体に低下している。以上より、長期的に酸性化しているだけでなく、山火事という短期的な影響によって、土壌の酸性化が進行したことが明らかになった。また、生口島地域では、表層土壌の侵食速度が、山火事直後にそれ以前の30倍にも達し、加速的に土壌養分が流亡したことが明らかである。
また、土壌中には、大気降下性の重金属が蓄積されており、その量は20年以上の期間の蓄積にあたる。これらは、土壌の酸性化にともない溶脱していくため、海洋生態系にとってこの追跡も重要となる。現在のところ、降雨の1割程度が流出していることが明らかになっている。
さらに、生口島では高速道路建設にともない降雨時に大量の土砂が流出している。
3.沿岸流域の窒素流出
沿岸流域における窒素流出は、流出過程(河川流出及び地下水流出)、流域内での窒素インプット量、自然浄化機能の違いによって異なる。一般的には、インプット量に依存している。流域における窒素インプット量は果樹園で明らかに大きいため、果樹園面積率が高ければ窒素インプット量も多いと考えられる。そこで、いくつかの流域における施肥窒素指標と窒素流出量の関係をみると、一般に窒素流出量は河川流量に比例して増加するが、TR流域では果樹園面積率が5_から_8%と他に比べて小さいにもかかわらず、窒素流出量が大きい。これは、河川流量が多かったため河川の窒素流出量が多くなったものと考えられる。ここで、同一時期に流域の河川流出量が多いということは、流域の地下水流出は少ないことを意味し、2つの量比は流出域の地形勾配が緩いほど河川優位になる。地下水流動にともない流出域でNO3--Nが浄化されることがいくつかの流域で報告されていることから、流域の窒素流出は、流域の地形勾配が緩い大河川ほど大きくなると考えられる。