抄録
1.生産組合設立の経緯 北庄中央棚田天然米生産組合は、平成6年度「棚田天然米生産地育成事業」と「棚田地域営農条件等整備事業」推進地区認定と共に、北庄中央地区34戸の内24戸で組織され、平成11年には、日本一の棚田面積を誇る地域として、「日本の棚田百選」の認定を受け、現在もその活動を続け、多くの棚田ファンの指示を得ている。2.生産組合の目指すモノ 「耕して天に至る」景観は、誰の心にもある「ふるさと」の姿だと考える。しかしながら、高齢化が進む状況下で、急傾斜の耕地を耕作し管理する事は大変な重労働である。しかし、この重労働が「維持保全」と言った誰かの為に「やらされる」と言ったマイナスの活動ではなく、自分達の活動が誰かの為に「役立っている」と言った、「やりがい」(プラス)となり、地域に暮らす人々の表情が活き活きとし明るくなる事が、真の活性化であると考え、生産物の販売よりも人と人の触れ合いに的を絞って活動している。3.地域教育の場としての棚田 棚田天然米生産地育成事業の中のメニュー事業「都市との交流促進事業」を実施するにあたり、当生産組合では消費者との交流より、地元小学校との交流を重点に実施するこ事とした。当組合は、先ず地元小学校の子供達に昔ながらの稲作作業の体験を通して、水の大切さ・土の感触、そして自分で育て収穫し味わう事で食の大切さを体感し学んでもらおうと、1年生から6年生までの全児童と年2回の作業(田植え・稲刈り)の交流を組合発足の翌年(平成7年)より実施してきた。昨年は、溜池の水が山を越え谷を越えて、多くの棚田を潤す先人達の技と知恵を地域の活きた教材で学ぶ事も出来た。今年は、田植・稲刈りの交流ではなく生産組合メンバーと児童・教職員が協力し菊花を栽培する事で、今までの点から線に交流を拡がり、知恵と達成感を身につけるものと期待する。生産組合としても、今後、生産組合員を中心とした人と人の触れ合いにより、「心優しい人間形成」に役立つ「活きた学習の場」としての棚田を提供したい。4.「苦農」から「楽農」へ 「棚田を保存される上で大変な作業は何ですか」と言った質問を良く受けるが、その時、必ず答える内容が2つある。それは、水張り面積をはるかに越える畦畔の草刈りと田植えから収穫までの約100日の間、溜池の水を管理しながら水田を潤わさなければならない点で、この2つの作業は、棚田での農作業を「苦農」と言わせる大きな要因である。しかし、当地を訪れ棚田を目の当たりにし、「良く管理されている」とか「この風景を見ると、心が癒される」と言った言葉を聞くと、草刈りの苦労も少しは楽になるのを感じるのは、私だけではなく、地区住民誰もが感じる事と確信している。従って、良い意味で常に地区外の人の目を意識し、その人達の期待を裏切らない為にも、現状を出来るだけ永く維持する。これだけでは、「これまで以上の苦農」になるが、異なるのは、「地区住民と訪問者の間にコミュニケーション」を持ち、訪問者の生の声を組合員が聞く事で、「今の姿をもう少し維持しよう」と言った意識が強くなるのではなかろうか。この意識改革こそ「楽農」への考え方の第一歩ではないか。昨年は、消費者との交流以外に、「棚田ファンクラブ会員」と「地区住民」との交流を重点とした、棚田での「収穫感謝祭」を実施した。これからも、棚田ファンと地元住民との触れあいを大切にした生産組合を維持したい。5.棚田保全、今後の課題 毎年、確実に組合員の年齢も一つ大きくなって行く。これは、どうしようもない現実である。でも、今の生産組合は、精神年齢で高齢化を少しでも遅らせようと頑張っている。しかし、限りがある。今後は、地元としては、協同作業による労働力確保等を積極的に進めるほか、外部からの応援者なども積極的に受け入れる等で、日本の農村の姿・癒しのふるさととしての棚田を、1年でも永く生活感のある姿で維持したい。