日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会春季学術大会
会議情報

沿岸性汽水湖沼の完新世における古環境変動の共通性について
*鹿島 薫
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 000001

詳細
抄録

1 研究の目的 近年、氷河堆積物の酸素同位体測定などから、第四紀後期に数千年_から_数百年周期の急激な気候変動が繰り返したことが指摘されるようになってきた(多田1998)。一方、日本周辺における完新世海水準変動の研究から、「縄文中期の海退」、「弥生海退」など完新世において何回かの一時的な海水準低下の存在が指摘されている(例えば海津1994)。これらの海水準の微細な変動は上記の数千年から数百年周期の急激な気候変動が完新世においても継続していた可能性を示唆している。 本講演では、主に珪藻化石を中心に、生物指標からの完新世後半における古環境変遷と海水準変動の復元について、浜名湖などに沿岸汽水湖沼における最近の研究成果を報告する。2 ボーリングコア試料中の珪藻遺骸群集の変動による汽水湖沼における塩分変動の復元 本講演では、完新世基底部までの試料が得られているボーリングコア試料が得られている、浜名湖、霞ヶ浦、宍道湖、三方湖、さらにサロマ湖湖岸に近い常呂平野について、珪藻遺骸群集からの塩分変動の復元を行った。また、以下、各湖沼における珪藻群集の特徴とその地史を簡単に述べる。(1)浜名湖 浜名湖ではアカホヤ降下期以降、2回の淡水化期が確認された。この2つの時期では、淡水湖沼にのみ出現するAulacoseira granulata, A. ambiguaが優占して産出しており、完全に海域とは隔離されいた。この二つの淡水化期の正確な編年はまだなされていないが、火山灰や14C年代測定値からの推定すると、3000から2300yBP, 1600~500 yBPとなる。(2)霞ヶ浦 霞ヶ浦では、湖水の淡水化は最近500年の現象であり、それ以前には湖水が淡水化したことはなかった。アカホヤ降下期以降、湖水の塩分はゆるやかに低下し、水深の浅くなってきたことが、浮遊生珪藻群集の群集変化と、付着性珪藻の割合の増加で推定される。 しかし、Cyclotella caspia の割合の変化から、3回の海進海退が完新世後半に確認された。(3)宍道湖 宍道湖では、約5500から500yBP 頃に、珪藻化石が産出しない層準が産出した。この層準は、ヌマコダキガイの幼貝のみが産出するという異常な堆積環境となっており、極めて特殊な堆積環境による現象として検討中である。その後宍道湖はAulacoseira granulata, A. ambiguaが優占する淡水湖沼となった。そして、最近(約100年前)に低鹹汽水湖沼へと変化した。(4)三方湖 三方湖では、完新世を通じて最近500年前頃まで淡水環境が継続していた。その後、Cyclotella caspia が優占する低鹹汽水湖沼へと変化した。淡水湖の期間においても、顕著な水深の変動が復元された。(5)常呂平野 常呂平野では、完新世後期において3回の顕著な海進海退過程が復元された。3 日本各地の沿岸性汽水湖沼における完新世における環境変動の共通性   研究の結果、日本各地の沿岸性汽水湖沼では、様々な環境変動の過程が確認されることが分かった。しかし、完新世中_から_後半において、周期的な環境変動が共通して認められる。それらは、顕著な塩分変動として認められるものから、水深変動として確認されるものまで、その環境変動の程度・様式には各湖沼で差異があるものの、相対的な低塩分期には共通性が認められることが分かった。それらの年代はおおよそ、4500-5000yBP. 2500-3000yBP, 1300yBP, 300yBPである(なお、年代についてはさらなる検討が必要である)。 このような環境変動の共通性は、地殻変動のような地域的な変動では説明がつかず、気候変動・海水準変動など広域の変動によるものと考えられる。ただ、気候変動・海水準変動に対する湖沼環境の変動様式には、多様性が見られ、それが環境変動の個別性・地域性を強調して印象づけていた。

著者関連情報
© 2003 公益社団法人 日本地理学会
次の記事
feedback
Top