抄録
Iはじめに 京都では、その歴史と文化を継承し、持続的で活力ある都市の創造を目的に、行政・民間・大学などが、様々な取り組みを行っている。その中で、京町家は京都という都市の骨格を形づくってきた最も基本的な建築様式であり、京都のまちの歴史・文化の象徴として、現在もなお、多くの市民の住まいや仕事場として活用されている。京町家は地域の資源として大切に受け継がれ、その保全・再生を支援する市民活動は、近年ますます活発になっている(財団法人京都市景観・まちづくりセンター、2003)。そうした京町家への関心の高まりの中で、京町家の現状や実態を正確に把握することが急務となっている。
II既存の京町家調査の概要 京都市は、都心部を対象に京町家の外観調査と住民へのアンケート調査を行った平成7、8年度市民調査「木の文化都市:京都の伝統的都市居住の作法と様式に関する研究」を基礎として、調査地域を拡大して平成10年度京都市「京町家まちづくり調査」を大規模に実施した(これらを第I期調査と呼ぶ)。これら2つの調査結果から、都心4区(上京区・中京区・下京区・東山区)で、明治後期に市街化していた元学区に含まれる範囲には、約28,000軒弱の京町家が残存していることが確認された(京都市,1999)。
これらの外観調査では、町家類型、保存状態、建物状態などが悉皆調査され、その正確な位置が把握された。具体的な調査項目は、建物類型調査としては、1.総二階、2.中二階、3.三階建、4.平屋建、5.仕舞屋、6.塀付、7.看板建築、8.その他、を判別し、長屋であるか否か、また、1から3に関しては、昭和初期型(腰壁の素材として、石張り壁、タイル壁、人造石研ぎ出し、その他)の区別を行っている。
そして、1から5の類型に関しては、伝統的意匠の保存状態として、大戸・木格子戸・木枠ガラス戸、虫籠・木枠ガラス窓、土壁、格子が残っているか否かを調べ、A「外観が全てそろっている」、B「いくつか残っている」、C「一つだけ残っている」、D「全く残っていない」、の4つのカテゴリーに分類している。さらに、全ての類型に対して、外観判断による構造上の建物状態として、い「そのまま今後も使えそう」、ろ「今後修理が必要」、は「今すぐ修理が必要」、の3つカテゴリーに判別している。
III京町家モニタリング・システムの構築と追跡調査 これらのデータは、当時のGIS環境や、個人情報保護の観点から正確に1軒1軒GIS化し、データベースを作成し、それを維持管理していく計画はなかった。立命館大学文学部地理学教室では、21世紀COEプログラム『京都アート・エンタテインメント創成研究』の一環として、4次元GISとVR技術を用いた京都の町並みの景観復原を行う「京都バーチャル時・空間の構築」に関する研究を推し進めており(矢野ほか、2003; 2004a,b; Yano et al.2004)、その中で、京町家1軒1軒に関する詳細なGISデータベースを必要とした。そこで、河原ほか(2004)では、かかる既存の京町家調査のデータをGIS化し、第I期調査のデータベースの不備を可能な限り修正した。そして2003年度から、立命館大学文学部地理学教室は、(特非)京町家再生研究会、京都市都市計画局都市づくり推進課、(財)京都市景観・まちづくりセンターなどと密接な連携をとりながら、第I期京町家調査から約5年を経過した、追跡調査を2003年夏から開始した(第II期調査と呼ぶ)。そこでは、第I期調査の復原GISデータを基礎として、再度、外観調査を行い。京町家の存在の有無、保存状態、建物状態、空家か否か、事業活用、などを再調査し、京町家が消失した場合は、現在の用途をデータベース化した。さらに、第I期調査では確認されなかった京町家(新発見町家と呼ぶ)もあわせて調査した。対象地域は、京都市都心18元学区に関しては、3月に京都市都市計画局都市づくり推進課が約180名の市民ボランティアの協力を得て追跡調査・アンケート調査を実施し、立命館大学はそれ以外の第I期調査範域の追跡調査を行っている。この京町家モニタリング・システムは、第I期調査に、第II期の追跡調査が加わることにより、一軒一軒の京町家の情報とその履歴を記録するものである。ここでGISはデータの管理、調査地図・調査票の作成、そして京町家の分布および変化の分析に用いられている。このシステムの構築は、産官民学の協同事業であり、歴史都市京都の京町家を活用した都市再生に資するものとして、大きく期待される。