日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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コペンハーゲンにおける都市景観の構成と形成
*山根 拓
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p. 118

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抄録
_I_ 問題の所在 コペンハーゲンCopenhagenは,9世紀頃に起源を有し,荘園領等を経て16世紀以降はデンマークDenmark王国の首都として発展を遂げた。18世紀中盤まで,市街地は塁壁に囲まれた地区に留まった。数度の大火の後の修復や新築を経て,また1878年以来の都市計画に影響され,旧い歴史的建造物と新しい建造物が街路に連なり現代の都市景観を形成した。その場所を逍遥した時に感じられるのは均整のとれた景観の美しさであり,それは従来,日欧都市の比較論の中で,欧州都市について指摘された特性の一つであった。今報告ではこの特性に注目し,主に建築学的基準からコペンハーゲン中心部の街路景観の構成上の特性を記した上で,デンマークの都市計画とりわけ「ローカルプラン」の内容を検討し,その景観形成との関係を論じたい。_II_ ストロイエの景観構成ストロイエは「主要なショッピングストリート」を意味し,全長約1.2kmの北欧随一の繁華街であり,コペンハーゲンの都心にあるコンゲンスニュトウからロズフスプレイズまでの一連の街路や広場から成る地区である。それは1960年代初期に歩行者用街路として命名され,以後,路面・広場の改修等が進められた。こうした中心市街地の都市景観=街並みの構成上の美観は,沿道建物における,高さやその壁面の位置(壁面線)の統一性,ファサードのデザインコントロール,看板等の二次輪郭線の配置等により評価される(佐々木,1998)。これらの点からストロイエの景観を見ると,まず,建物の高さは,その最上部には瓦,緑青吹き銅板,スレート等による傾斜屋根や尖塔,屋根裏部屋の突出等,様々な形態と高さの相違を示しつつも,全般に4_から_5階建の建築物が連なることで,ほぼ統一されている。また,その壁面線も概ね揃っている。次に,ファサードは,都心商業地区であるために,ショーウィンドウ等を伴う1階部分と2階以上の部分との間にデザインの差異が見られる場合が多い。ファサード全体は,この都市の歴史を反映し,オランダルネッサンス様式やユーゲント様式,それに折衷主義や国際的モダニズム等,様々な手法で構成される。材質的にはレンガ,石,コンクリートあるいはそれらの複合により構成され,色彩的にはレンガや石の材質の地色の他,青や赤等の多様な塗色も見られる。繁華街ゆえに看板やサインの種類も多様であるが,日本の繁華街に比較すれば,全般に抑制的である。ストロイエの景観はこのように評価されるが,全般的に見ると,建物の高さや壁面線の統一を通じて,個性的な個別の建築物が調和的に構成され,一体的な景観を形成していると言える。_III_ 景観形成とローカルプランデンマークの地域計画は,階層的な行政組織(中央政府・カウンティ(アムト)・基礎自治体(コミューン)・各街区)に対応して,国土計画,地域計画,コミューンプラン,ローカルプランに分かれる。上位計画が下位計画を枠付ける中,最小の街区レベルで詳細な景観構成を規定するのはローカルプランである。これは市議会で決定されるが,立案過程には住民が積極的に関わる。ストロイエのローカルプラン計画書“Lokalplan Nr.152”(1990年)で,当該地区の景観構成に関わる規定を見ると,都心的特徴を持つ商業街区の維持が本計画の目的である旨がまず示され,その上で,低層階の用途(顧客向けサービス業への限定)や建物の外観構成基準(資材・造形・色等の地域・近隣特性との一致,街路ファサードの適切な垂直・水平分割への適応,窓等の改変時のファサード表現との調和,複数建物に連なるファサードデザインの禁止,ショーウィンドウ設置の必要性,標識・広告・照明・日よけ・ショーケース等の適切な設置等)について規定されている。これらの規定が,現実景観に反映されていることは現地観察から感得されるが,上述の諸規定は厳密な数値目標ではなく,その効果を「客観的に」示すことには困難を伴う。なお,国がリストアップした歴史的建造物はローカルプランの対象外となる。ローカルプランのもう一つの要点は,ファサード等の改変の際に,建物所有者の意向が尊重される一方,当該計画の内容に関して必ず市当局がチェックを行うことである。実際には市の建築家が景観に対する当該計画の適性を判断するのであるが,その行為を通じて,「専門家」の持つ微妙な暗黙の景観美意識が表出する。
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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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