日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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ナベヅル越冬数と環境変化との関係
-山口県周南市三丘地区を事例として-
*増山 雄士
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キーワード: ナベヅル, 越冬, 三丘地区, 水田
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p. 123

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抄録
1.はじめに
環境の変化や開発などにより多くの生物がその生息環境を追われ,時には絶滅さえしてしまうものも近年では稀ではない。特別天然記念物指定されている山口県の「八代のツルおよびその渡来地」(以降八代地区)は最高羽数300羽以上を誇った本州唯一のナベヅル越冬地である。当地域では,住民の手厚い保護のもと越冬環境が長い間維持されてきたが,近年ではナベヅル越冬数が減少し続け昨シーズンはついに11羽となった。
本発表で取り上げる山口県周南市三丘(以降三丘地区)は,ツル越冬数が100羽を超えていた時期に八代地区以外のツルの餌場としてよく利用されていた地域である。当地域では天保年間に編纂された『防長風土注進案』にも見られるように古くからツルがいたことがわかっているが,90年代前半にツルの越冬利用が見られなくなって以来利用されていない。
2.研究目的
ナベヅルの減少理由として現在,環境の変化(悪化)・ねぐらの減少・他地域(鹿児島県阿久根地方)への吸収・各個体の縄張り強化による離脱などの理由があげられている。本研究では越冬数が減少し続ける八代地区に対し,越冬数減少が始まった初期段階で大きな影響を与えたと考えられる環境の変化,特に越冬期に遊動域として利用される水田環境の変化を三丘地区を中心に主に戦後から時系列的に考察し,どのような原因でツル越冬数が減少したのかを明らかにすること,さらには現在進められているナベヅル越冬地分散計画に際し,環境変化を考察した結果を踏まえ現在の環境をいかにツルが越冬しやすい環境へ改善するかを導き出す基礎データを作成することを最終目的する。
3.研究方法
詳しい水田環境を検証するために,耕地整理等で変化した水田区画を復元し,それぞれの区画ごとにどのように変化していったかその推移を検証する。具体的な研究手順は,1980年作成の熊毛町管内図(1/2500)をベースに基本となる水田区画を作成,さらに1962年撮影の空中写真を使用し,古い水田区画を復元する(図1)。そこで復元した水田区画に対し,聞き取りによりそれぞれの水田区画ごとの状態(湿田・乾田,二毛作地域など)を再現,面積比率を算出し,ナベヅル関係の報告書等から実際にツルが越冬利用した範囲とあわせ検証する。
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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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