抄録
中国の工業化は,いくつかの段階に分けられる.1980年代の工業化は郷鎮企業の成長にみられる農村工業化である。これは改革開放政策あるいは内発的工業化を象徴するものとして注目され,中国の工業発展を先導した役割は極めて大きい.とくに上海周辺および以南の東部沿海地域-江蘇省,広東省,浙江省-における郷鎮企業の発展は顕著であり,特徴ある"発展モデル"となった.そして,これら市場経済化の"実験"がその後の中国経済の方向を規定づけたと言ってもよい. 1990年代以降,郷鎮企業の中には中国大手家電メーカーとして成長したものもいるが,市場競争産権処理に向かう企業もあり.停滞時期を迎える.一方,企業制度改革進展と国内市場の拡大によって,工業発展の先導役は次第に郷鎮企業から個人経営企業や華僑系,日韓・欧米系などの外資系企業に移行していく.そして国有企業もこれまで計画経済時代からの負の遺産処理を続けてきたが,1990年代半ば以降ようやく企業改革による株式会社化,外資系との合弁などによってようやく成長軌道に乗りはじめ,中国の工業化は新たな段階に入っている.既に家電,自動車産業分野において,旧国有企業系企業の著しい成長と競争がみられ,中には国内市場のみならず海外生産拠点を持つグローバル企業として成長した企業もある. 中国の工業化と成長をめぐる議論として,中国の工業成長が基本的な枠組みとして改革開放政策に規定されながらも,何が郷鎮企業や都市の国有企業の成長をもたらした要因であるのか.そして中国の工業成長が経済のグローバル化にいかなる影響をもたらしているかなどがある. 前者は労働力の低コストによる輸出市場の拡大,先進諸国からの資本投資が指摘されているが,それ以上に汎用技術-近年は先端技術-の導入と学習システム,それを通した素早い製品化技術の獲得と生産システムの形成が重要である.中国企業にとって,外資導入という資金調達よりは合弁・合資および提携を通した"技術"の獲得が成長のカギを握っている.中国大手家電メーカーの美的や海尓の成長はその典型である.後者は先進諸国市場における「中国脅威論」であり,中国市場をめぐる外資系企業進出問題である.