日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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六角井戸の研究
*河野 忠
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p. 169

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抄録

1.はじめに井戸枠はその材質(木材,石)に基づく技術的制約から四角形,もしくは丸形にするのが一般的である.しかし日本各地には六角形,八角形の井戸が40ヶ所程存在する.なぜ六角にするのかという疑問から,まず数字の意味に注目してみた.日本では八は縁起の良い意味で使われるが,六は神聖な数として知られている一方で,墓や地獄などといった事象に通じる数として認識されている.数の意味で六角井戸をとらえた場合,そこには「六」本来の意味とは別の,特別な意味があるに違いないと考えた.そこで,本研究は日本各地の六角井戸の分布や現地調査から,六角井戸が造られた人文,自然地理学的背景を明らかにすることを目的とする.2.六角井戸の分布と故事来歴六角井戸は秋田から沖縄まで,全国各地に見られるが,その分布は京都・奈良,淡路島周辺,長崎・沖縄に集中する傾向が見られた.またその半分近くが海岸付近に存在し,弘法伝説のある井戸が6ヶ所あった.中部地方以北の六角井戸は,元々あった丸い井戸側にあとから六角形の枠をつけたものが多く,正確には六角井戸とは言い難いものであった.京都・奈良は歴史上の人物や史実に基づく井戸が多く,史蹟となっている場合が多かった.淡路島周辺の井戸は記紀や風土記などに登場する古井戸が多く,海岸付近に存在する.長崎の井戸はやはり海岸付近にあるが,中国人が築造して南蛮貿易船などへ水を供給した史実がみられる.3.多角形にする特別な理由沖縄はもともと丸形の井戸側であるが,そこに井戸枠を造る材料として石灰岩のブロックを使用した.このブロックを組み合わせて井戸枠を作るには,小型の井戸は六角形,大型は八角形にすると効率がよい.石の文化圏に属する沖縄ならではの井戸といえよう.一方で神奈川県鎌倉市小坪海岸にある六角井戸は,六角の二辺を逗子側,四辺を鎌倉側が使用する水利権を表すために築造された.これは,六角井戸が朝夕に井戸の利用が集中する際の合理的な対策として築造された典型的な理由であろうと考えることができる.

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