日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
会議情報

農産物の産地ブランド化と地理的表示
*高柳 長直
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 27

詳細
抄録

_I_ はじめに フードシステムのグローバル化が多国籍企業主導で進められてきたが,対抗軸としてのローカル化が再認識されている。その一つとして,地域農産物を地域市場さらに全国市場で有利に販売するためのブランド化が着目されている。一方,消費者が食の安全・安心志向を強める中で,原産地表示の問題がクローズアップされている。そこで,本報告では農産物や食品に関するブランドの呼称の問題に焦点を当て,ローカル性を強調したブランドを形成していく際,呼称に関してどのような課題があるかを考察する。_II_ 地名の価値と地理的表示 農産物や食品は,ブランドの呼称として,地名が用いられることが他の製品と比べて圧倒的に多い。地名はブランドを表示するための限られたスペースの中で,地名は多くのメッセージを消費者に伝達することが可能であるからである。ブランドを形成する地名は,高級感,高品質,本物性,顕著性など農産物や食品と関係する場所の持つイメージを商品に付与し,消費者の購買意欲を喚起させる記号といえる。De Wit(1993)は,アメリカ合衆国においても,食料品のラベルに表示されている地名が偏っていることを明らかにした。 一方,ヨーロッパにおいては,古くからローカルブランドに価値を置き,伝統を持ち特色ある産地の製品が市場の中で公正な評価を獲得できるよう地理的表示を保護をしてきた。EUにおいてPDO(原産地呼称保護)とPGI(地理的表示保護)が1993年から施行されている。地理的表示に関する指定状況を国別にみると,ラテン系ヨーロッパ地域に集中している。 ただし,この地理的表示の保護については,EU内においても必ずしも共通した理解が得られているわけではではない。イギリスのIlbery and Kneafsey(1999)は,PDO/PGIに対して,批判的に地理的表示制度の歴史的伝統性の観点からの不平等性や多様なアクターの存在を考慮する必要性を指摘している。_III_ 地理的名称を付した食品に関する法制度と原産地表示 JAS法に関しては,原産地表示制度が1996年から開始され,2000年にはすべての生鮮食品で,小売販売業者は原産地を表示することが義務づけられた。加工食品についても,消費者にとって安全性や商品選択の観点から,順次対象品目が拡大されている。しかしながら,必ずしもローカルブランドの形成という観点からは十分に機能しているとは言い難い。 景表法に基づいた公正競争規約は,ユニークな制度として着目される。これは,公正な競争を行っていくために公正取引委員会の認定を受けて,事業者どうしが自主的に表示のガイドラインを協定する制度である。しかしながら,公正競争規約は業界の自主的な取り決めであるので,地名や地理的表示に関して,規定している品目は,飲用乳,生麺類,コーヒーの3品目にとどまり,参加していない企業に拘束力はなく,基本的に運営は民間部門に任されているので,業界の秩序保持という役割にとどまっている。_IV_ 商標登録による産地ブランド保護の限界 地名を含む商標は,商標法第3条第1項第3号で規定されているとおり登録のためのハードルが高い。そのような状況の中で,JA夕張市の「夕張メロン」は,農産物の産地の名称と産物の普通名称登録され,著名・周知商標とされている唯一のものでああるが,他の産地が「夕張メロン」と同様に商標登録できるとは限らない。 第一に,地名が商標として登録されるためには,使用による特別顕著性を獲得しなければならないが,そのためには,時間とコストがきわめてかかる。第二に,農産物の場合は生産・流通に関わるアクターが多様で,商標使用の私的独占を与えるという制度が馴染みにくい。 したがって,流通チャネルが多様化し,商品サイクルが早まっている現代日本において,産地ブランドの保護を商標登録で行なうことには限界があり,EUにおけるPDO/PGIのような新たな制度の導入が望まれる。

著者関連情報
© 2004 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top