抄録
近年、集水域や森林資源の学際研究に期待が高まり、研究成果の社会への還元が急務となりつつある。本研究では、ヒトの生活の場であり、エコシステムとしての集水域におけるヒトと自然の定量的な関係の解明を進め、新たなライフスタイルや計画手法の実現に向けた環境情報とシステムの創造を目標とした。 具体的には、ヒトの活動の集積と自然がもつ抱擁力の定量的な関係をはかる指標として、集水域を系とした環境容量の概念を設定することにより、数理モデルと地理情報システム(GIS)を用い、生活空間としての首都圏、近畿圏、中部圏の3大都市圏における集水域の環境容量を試算した。また、環境要素が持つ環境性と資源性の関連や環境容量の変動構造の解明を進め、学際的な流域管理モデルを試行した。 環境容量は、土地利用、森林、降水や人口などの自然環境量の関数と、CO2の固定構造や森林資源の成長構造、降水の地中への浸透構造、食糧の生産構造などの科学的な関数、また、ライフスタイルや環境関連技術などの技術水準による一人当り負荷量の関数などの3関数により構成した。環境容量の試算モデルは、CO2固定容量、クーリング容量、生活容量、水資源容量、木材資源容量の5指標を設定し、環境情報と科学知識の活用と統合により構築した。 本研究により、生活の場としての地域生態環境の一つ一つの特性や容量の定量的把握が進められ、集水域の上流と下流域など地域間の相互依存の関係や河川の連続性による影響圏の予測、また、地域環境の改善により期待される効果について、さらに、環境に直接影響を与える環境計画などの諸活動やライフスタイルの新しいあり方について、ヒトと自然の関係という視点から学際的な認識と検討が可能になると考えられる。これらの成果により、エコロジカルプランニングを目指す環境計画において、情報管理、環境評価、ミチゲーション、また合意形成等のためのシステム構築の一助になるものと考えられる。