抄録
低廉な生産コストと広大な消費市場の魅力により、グローバルに展開する企業の生産機能が中国の沿海部に集積してきたが、上海のような大都市の内部には、より高次の機能、例えば経営管理や研究開発といった機能が集積しはじめている。また、それらの機能に従事する人材のための居住環境も整備されつつある。本発表では、こうした高次機能の集積にともなった都市空間再編の動向を検討する。1.外国資本の流入と都市開発上海の本格的な都市開発は、華南の諸都市などよりも遅れて開始された。浦西地区の再開発は1980年代中盤に着手されたが、浦東地区の大規模開発は1990年代に入ってからであり、大量の外国資本が上海へ急激に流入し始めたことと時期を一にしている。この時期、上海でも土地制度改革が進められて、土地使用権の有償譲渡が行われるようになった。当初その譲渡先はもっぱら外国資本であり(表1)、譲渡金を利用した都市開発の原動力が外資にあったと言えるだろう。ただし、近年は国内資本向けの譲渡が増加している。2.都市機能の高度化かつて租界時代に東アジアの金融・貿易の中心地となったのは黄浦江に面した外灘であったが、今では対岸の陸家嘴金融貿易区の高層ビル群に内外の大企業が生産・販売に関わる経営管理機能を集中させている。外高橋保税区や金橋輸出加工区には外資系企業の生産拠点が数多く立地している一方で、張江ハイテク園区や漕河?ニューテク開発区などにおける研究開発機能の集積が注目される。住宅以外の建物について建築面積の変化を見ると(表2)、1990年代のオフィスの急増ぶりが目を引く。3.居住環境の向上経営管理機能や研究開発機能に従事する一般に高学歴で高所得の人材が、新たな社会階層を形成していると見られる。1990年から2001年のデータでは都市住民一人当たりの年間可処分所得が2,182元から12,883元になったと同時に、所得分布の上下の幅が拡大して階層間の所得格差が顕著になった。この間に企業や機関の従業員を対象とした住宅が大量に建設され(表2)、一人当たりの居住面積が6.6_m2_から12.5_m2_に向上しているが、それと同時に、庭付き一戸建てや高級マンションを含む高級住宅地の開発が活発に行われ、高所得階層の需要を満たしている。4.グローバルな都市間競争 長江デルタ地域そして中国全体を後背地とする上海が、市場経済システムへ回帰する中で、計画経済システムの下では失いかけていた都市としての諸機能を再び強化するにいたった。そして、今や上海はグローバルな都市間競争に加わることになり、より高次の機能を集積させそれらに従事する階層を形成し定着させるべく、自らの空間を再編しつつあると考えられる。