抄録
1 本研究の目的と方法 5年ごとに行われるわが国の国勢調査は、日本の人口と世帯の状況を把握することを目的としている。1995(平成7)年度の国勢調査からは、ほぼ「町丁・字」レベルに相当する調査区単位の統計(小地域統計)も発表され、居住地区の詳細な統計が得られるようになった。また、小地域の境界ファイルも提供され始め、国勢調査の小地域統計をGIS上で表示し分析できるようになった。そこで本稿では、2000(平成12)年度国勢調査の小地域統計を用いて、人口、社会、就業特性に基づき居住地区分類を試みた。この分類の目的は、国勢調査の大量な情報に基づき居住地域のクラスター(タイプ)を抽出するとともに、それらの特性と空間分布を考察することである。また、データの形式の変更や前処理方法の選択が分類結果にどのような影響を及ぼすかを考察することによって、居住地区分類に適したデータ形式と前処理方法を確立することである。研究地域は、さいたま市、戸田市、川口市、蕨市、鳩ヶ谷市で構成される埼玉県南部地域である(図1省略)。この地域を研究地域として選んだ理由は、業務地域、工業地域、農業地域など多様な産業地域を含み、さまざまなタイプの居住地区で構成されていると考えたからである。2 構成比による居住地区の分類と居住地区特性の抽出 2000年度国勢調査小地域統計の51変数(表1省略)を利用し、構成比のデータを用いて分類し、51の主成分を抽出した。表2(省略)は上位10成分の分散の割合を示し、それらで総変動量の約94%を説明した。第1主成分は36%を説明し、関連する変数は図2(省略)から単極構造で、「一戸建て住宅の世帯%」、「自宅保有(持ち家)世帯%」、「居住期間10年以上」、「核家族世帯」、「延べ面積100m2以上の世帯」、「就業時間35H以上就業者%」を表わしている。この成分は、持ち家・一戸建て・核家族世帯とこの地域の典型的な居住形態の一つを表わしている。第2主成分は31%を説明し、両極構造を持ち、プラスが、「共同住宅の世帯%」、「賃金・給与が主な世帯の%」、「第3次産業就業者%」、「就業時間35H以上就業者%」、「民営借家世帯%」を表わし、マイナスが「一戸建て住宅の世帯%」と関連している。これは明らかに第3次産業従事者の住む「アパート・マンション」対「一戸建て」の住宅関係の次元を表しいる。第3成分は9%を説明し、両極構造を持ち、マイナスが「給与住宅世帯%」、「民営借家世帯%」、「居住期間10年以上人口%」を表わし、プラスが住宅が「中規模」、「核家族世帯%」、「自宅保有(持ち家)世帯%」と関連する。この次元は、この地域の「借家」対「持ち家」の側面を表わしている。 次に51主成分すべての主成分得点を用いて居住地区に対し凝集型階層クラスター分析を行い、20クラスターの段階で分類を止めた。図3(省略)は、20段階での分類結果を示している。888の地区の内、2%(18)以下の地区で構成されているクラスターは、少数なものとみなし分類の解釈と名称付けから除外した。また、一つのクラスターはほとんどの変数で値がゼロなので、そのクラスターもはずした。その結果、表3(省略)に示されるように16のクラスターが識別された。分類結果をまとめると、住宅が小規模なタイプは1aから1eの五つが見られ、図3(省略)では青系と橙色で示されている。タイプ1aは29地区から成り、住宅は「民営借家」が多く、「小規模」住宅が目立つ。世帯の特徴は、「75歳以上」の「高齢単身者」が顕著であり「65_-_74歳」の「高齢夫婦」も目立つ。就業先は「第3次産業」が顕著であり、労働力状態は「主に仕事」で「恩給・年金が主な世帯」も多く見られる。 参考文献Rees, P., Martin, D., and Williamson, P.(eds) The Census Data System. Wiley, Chichester, 149-170.