日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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中国における農業構造調整
食糧生産問題を考える
*元木 靖
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p. 50

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抄録
中国では、近年、急速な経済成長を背景に都市と農村の間での所得格差の拡大という矛盾に加えて、WTO加盟(2000年12月)の影響が、今後どのように及んでくるかという点に大きな関心が向けられている。市場開放に最も敏感な農業部門は食糧作物である。ここでは「構造調整」の視点から、農村における土地利用変化とくに食糧生産の動向を展望すると共に、これからの課題について概観する。1.需給調整から生産構造調整へ  (前文略)1995年、レスター・R・ブラウン著『だれが中国を養うのか?』が出版され、世界の注目を浴びた。ところが、そうした関心とは逆に、その後の中国における食糧生産は増加を続け、とくに96_から_99年には4年連続で5億トン前後の増産を記録した。穀物の在庫量が増え、食糧管理の省長責任制もその役割を大きく後退させることとなった。それ以上に、食生活の構造変化が進む中で食糧生産の過剰問題が新たな政策課題となり、1999年にははじめて農業生産構造調整が提起された。過剰の実態についてははっきりしないが、現在農作物の97.3%は需要を満たしているか過剰基調にあり、そのうち供給過剰の商品は56.76%に達しているとの報告もある。     かくして農業生産の構造調整期に入ってから中国では、限界地における耕地の林地への転換が進められる一方、穀物を中心とした過剰な食糧作物から成長作物(油、肉、鶏、魚、卵、乳、果実、野菜)への調整が急展開しつつある。このことは、すでにアジアの各地でも経験されてきた食糧の「増産」(自給化)から「多様化」と「市場重視」、さらに「グローバリゼーション」という新しい課題に向けた対応が開始されたことを意味する。2002年に体系化された農業の地域構造の改革方針(全国を9つの特化地域に区分している)はその具体的な現れであるが、そこでは食糧作物以外の戦略作物が重視されている。2.果たして食糧生産問題は解消されたのか?  構造調整が進む中で、中国における食糧生産の行方はどうなるのであろうか。これからの政策如何によっては食糧不足問題が顕在化する可能性を否定できない、と言えるかもしれない。唯一食糧作物の特化地域とされている東北地区を対象として、米とトウモロコシの生産地の動向に注目してみた筆者の印象であるが、以下のような基本的問題点が横たわっている。 第1に、構造調整が進められる中で食糧作物の発展地域でも、近年その播種面積は減少傾向が認められる。これに対して経営的には個別経営(請負)の拡大によって、生産費を軽減し、合理化する動きが進展しているかというと、その傾向はきわめて少ないようである。その背景には中国独特の社会主義的(零細)土地所有構造に加えて、農村における多くの滞留(余剰)人口という制約がある。一方、農村では土地基盤の整備が後れ、機械化も制約される中で労働生産性は低く、国際的な価格競争という面から見て基盤は脆弱である。 第2に、東北地区では、気候的な条件などから作物栽培の多様化は大きく制限されている。こうした中で単作化という方向はある程度避けられない性格を有している。従来の延長線上での化学肥料の多投による単収追求が求められるかもしれない。その場合「新東北現象」として指摘されはじめた在庫問題が大きく懸念されよう。これに対して、かつては食糧の備蓄が強調されたが、構造調整期には食糧生産能力の備蓄が課題といわれるが、そのことはうまく展開し得るであろうか。こうした状況下において米やトウモロコシの品質面での多様化と加工による付加価値をつけた打開策が講じられているが、功を奏するかどうかは未知数である。
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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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