抄録
_I_.はじめに北陸地方は,第四紀における地殻変動が我が国でも有数とされる飛騨山脈(標高3000m以上)と富山湾(深度_-_2000m以下)とに囲まれた地域である.北陸地方には北東_-_南西走向の逆断層群が南北約100km,東西約150kmの範囲にわたって発達する(活断層研究会,1991;池田ほか,2002).北陸地方の第四紀後期における活断層の変位速度を算出するうえで,その良好な変位基準である河成段丘面はその重要な指標の1つである.本地域では,火山灰層が段丘面構成層中や被覆土壌層(ローム層)中に肉眼で認められず,自然露頭に乏しいことから,河成段丘面の形成時期は大部分において未解明であり,活断層の第四紀後期における平均変位速度は求められていない.我が国には上述のような理由から河成段丘面の形成時期が不明であるために,第四紀後期における変位速度が精密に求められていない活断層が数多く残されている.このような地域における河成段丘面の編年データの蓄積は,活断層の変位速度を精密に解明するうえで非常に重要なことである。また,迫り来る巨大地震への対応のみならず,我が国における第四紀後期における地殻変動の特性を理解し,将来の大地震の予測を行う上でも非常に重要なことである.そこで本研究では,北陸地方の中でも特に活断層が密に発達し,河成段丘面の発達も良い富山平野_から_金沢平野(以下,北陸地方東部と呼ぶ)の河成段丘面を,これらの構成層や被覆層の中に含まれる広域火山灰の対比によって編年を行った.こうした河成段丘面の編年をもとに,河成段丘面の分布形態,ならびに活断層の変位速度等を詳細に究明し,北陸地方の第四紀後期における活構造の特徴について解明を試みた._II_.結果とまとめ 本研究では,富山平野_から_金沢平野間に分布する河成段丘面を被覆土壌層や段丘構成層に挟在する火山灰層の層位,段丘面の分布形態,開析程度,傾斜,現河床からの比高,礫層の風化程度等を参考にして,高位より_I_面_から__X__II_面の12面に区分した.これらの段丘面のうち,_IX_面構成層上位にはATが,_VII_面構成層上位にはDKPが,_IV_面を覆う被覆土壌層下位にはK_-_Tzがそれぞれ挟在する.また,一部の地域では,_IV_面構成層上位に立山D(富山平野西縁)ならびにSK(金沢平野東縁)が認められる.本研究地域内の後期更新世における活断層の上下変位速度は,魚津断層(富山平野東縁)で約0.2_から_0.9mm/yr,呉羽山断層(同西縁)では約0.1_から_0.4mm/yr,高清水断層(砺波平野東縁)では約0.1_から_0.3mm/yr,法林寺断層(同西縁) 約0.1_から_0.4mm/yr,ならびに森本_-_富樫断層(金沢平野東縁)では約0.5_から_0.8mm/yrとなり地域毎に異なる.各地域の最大上下変位速度を比較すると,魚津断層(富山平野東縁)ならびに森本_-_富樫断層(金沢平野東縁)はB級(0.1_から_1.0mm/yr)上位の変位速度を示す.一方,呉羽山断層(富山平野西縁),高清水断層(砺波平野東縁),ならびに法林寺断層(同西縁)はB級下位の値を示す.魚津断層の上下変位速度が呉羽山断層や砺波平野両縁の活断層と比較して大きい理由としては,飛騨山脈の隆起が考えられる.一方で,森本_-_富樫断層の上下変位速度が呉羽山断層等と比較して大きい理由としては,森本_-_富樫断層が同断層の北方に位置する石動山断層に連続し,全長約70kmにおよぶ金沢_-_七尾断層を形成している可能性が挙げられる. 富山平野_から_金沢平野では,後期更新世以降の河成段丘面に累積的な変位が認められることから,本研究地域内の活断層群は少なくとも後期更新世以降には現在の位置で繰り返し活動している.また,完新世においても活動的である.地形面に大きな撓曲変形を伴い,断層線は湾曲・屈曲し,常に南東側が相対的に隆起していることなどから,これらの断層は山地側から平野側へ向かって衝き上げる逆断層成分が卓越していると考えられる.本研究によって,北陸地方のような火山灰稀産地域においても,河成段丘面の編年・対比は十分に可能であり,活断層の上下変位速度を精密に算出できることが確認された.