日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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変動地形研究の成果と将来
*今泉 俊文
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p. 83

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抄録
1.はじめに 1988年9月27日,日本地理学会秋季大会(愛知教育大学)において,シンポジウム「変動地形_---_成果と課題_---_」が開かれた.その時の成果が,『変動地形とテクトニクス』(米倉ほか編,1990)として出版されている.オーガナイザーの一人,(故)米倉伸之先生は,展望(11章)のなかで,変動地形研究の課題として次の3点を指摘されている.1)「地形」の形成過程について,広い視点から研究を深めること.2)変動地形の分析方法の多様化と定量化が必要であること(とくに地形編年と地形発達史には,各種の年代測定法の導入と地形層序学の改良に基づいた詳細さが求められる).3)日本列島の変動地形とテクトニクスの理解には,太平洋からアジア大陸にわたる広域テクトニクスについての知識を増やすこと,そしてそれぞれの地域を相互比較することが重要であること(とくに地球科学的な視点に立って大地形の理解が必要である) この16年間,変動地形に関する研究には,いったいどのような進歩(変化)があったのだろうか?(私は,何を目指してきたのだろうか.オーガナイザーから今回のシンポジウムの題目を与えられたとき,上記3点のどれからもはずれた私は,お断りすべきであったと後悔している).以下は,この16年間の出来事からみた雑感である.2. この16年間の出来事1)1991年3月,『日本の活断層』(活断層研究会,1980)を改訂した『新編日本の活断層』が出版され,旧版以降の活断層研究の成果が加えられた.とくにトレンチ調査は,実例こそ多くはないが,活断層の新しい調査方法として頁がさかれた(活断層の活動時期や間隔,1回のずれの量から,地震の長期的な予測研究にとっては不可欠な手法であると言う確固たる地位を確立した).2)1995年1月17日兵庫県南部地震が起こり,「活断層が地震を起こす」と言うことが,誰の目にも明らかになった.この地震を契機に,変動地形研究は,活断層研究と言い換えられる程,多くの(変動)地形研究者が活断層研究(特にトレンチ調査)に没頭した(現在も継続中).そして,多くの地球科学者の視点も活断層に集中した.国にも活断層の研究を推進する組織が作られ,予算も増えた.活断層に対する新しい研究手法(反射法地震探査に代表されよう)が試され,GPS観測体制も強化されてきた.活断層を取り巻く様々なデータが蓄積されると同時に,その評価も行われてきた.活断層と地震に関する新たなモデル・アイデア・シミュレーション研究が次々に登場してきた.そして,活断層の地震発生の確率や,地震動予測が試みられるようになった(16年前には予想すらできなかった事であろう). 3)2001年6月『日本の海成段丘アトラス』(小池・町田編)と2002年5月『活断層詳細デジタルマップ』(中田・今泉編)の出版にみられるように,変動地形や活断層に関するデータが,様々な媒体を利用しながらも次々と公表されるようになった(そしてデータの公開については,質・量・速さが増した).前者は,第四紀地殻変動グループ(1969)以来の,変動地形に関する詳細かつ高精度のデータ集で,これまでに蓄積され,かつ磨かれてきた,年代決定の新しい手法(高精度の火山灰編年と対比術や放射性年代測定法)の賜である.海岸段丘の旧汀線高度の他にも,河岸段丘を利用して内陸の地殻変動量の試算も加えられた.3. 雑感1)この16年の間に,地表・地下を問わず,変動地形のデータは,質・量とも急増した.特に活断層の地下を少しずつ深めて見ることが出来るようになったことは,活断層がテクトニクス研究の柱として位置づけられることをさらに強くするのではないだろうか(池田ほか編,2002).例えば,東北地方では,主要な活断層を,新第三紀の断列帯(地質断層)の反転運動として理解できたとき,何故,そこに活断層が分布(存在)するかという最も基本的な問題に触れることができよう.そして地形起伏がどのように形成されてきたかとする問いには,地表から求められる活断層の性質(属性データ)が詳しく示してくれるだろう.2)16年前に指摘された3点は,今後も変動地形研究の重要な課題として継続されよう.加えて,変動地形研究によって得られた様々なデータが,他の研究分野からの成果(データ,モデル,シミュレーション)と,相互に比較検証されるようになってはじめて変動地形研究は,地球科学としての重要な使命を持つであろう.
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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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