日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
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情報ネットワーク化に伴う医薬品小売業の水平的協業化の展開
*中村 努
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p. 117

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抄録
_I_.はじめに
 情報ネットワーク化は、企業の空間行動を大きく変化させている。なかでも、情報化に伴った空間再編や諸施設の再配置の動きが顕著である。しかも、先進的企業が進める情報化が、空間を組織化する促進要因として機能している。従来、情報化が産業立地や産業構造に与える影響を扱った研究では、全国スーパーなどの大手商業者の企業行動が、流通構造の変革者として論じられてきた。しかし、経営規模の制約から情報化が遅れていた中小小売業においても、近年著しい流通環境の変化を経験するなかで、積極的に外部の経営資源を利用した水平的ネットワーク化の動きが注目される。そこで本研究は、医薬品流通における中小小売業が進める情報ネットワーク化への取り組みを示すとともに、情報ネットワーク化に伴う小売業の水平的協業化の実態を検証することを目的とした。

_II_.医療用医薬品小売業における水平的協業化
 近年、医療用医薬品業界では、多品種の医薬品の在庫管理と患者情報の管理および効率的な物流システムを構築することが不可欠となっている。この課題に対し、中小小売業者は情報ネットワークを共同利用することによって水平的協業化を達成し、薬局間の競争と協働を両立させた。水平的協業化に伴って、コンピュータ・ネットワークの構築、同時に情報提供機能を有し、ネットワークと物流機能との統合を達成することによって連結の効果が発揮された。そして、協業者間の相互補完によって多様な主体の情報を結合し価値の増大を図っている。

_III_.一般用医薬品小売業の水平的協業化
 一方、一般用医薬品や化粧品・日用雑貨を扱う従来の中小薬局・薬店で組織するボランタリー・チェーン(VC)は、大手ドラッグストアに対抗するため、他のVCと合併しながら、チェーンとしての売上高を拡大させることで規模の効果を発揮している。さらに、情報ネットワークを活用しながらVC本部機能を一層強化することによって、加盟店の独自性・多様性を確保しながら、チェーンオペレーションの構築に努めている。

_IV_.情報化に伴う水平的協業化と中小小売業組織の立地展開
 水平的協業化の特徴は取り扱う商品によって異なっている。配送システムでは、医療用医薬品はその商品特性上、物流コスト比が低いうえに、多品種、高品質性、緊急配送性の商品特性を持つため、時間距離の短縮を優先させたローカルな配送圏を形成している。一方、一般用医薬品の場合、物流コスト比が高いうえに、需要予測しやすい商品特性上、物流コストの低減を優先させた配送システムを構築している。
 最後に、水平的協業化の限界と課題について考察した。その結果、調査事例のなかには連結や規模の効果が持続できず、水平的協業化を維持しなかった場合がある。すなわち、医療用医薬品小売業による水平的協業化は、水平的協業化に参加した主体間の目標が一致しなければ、連結の効果が発揮されず、ネットワークの管理・維持が難しくなることが判明した。他方、一般用医薬品小売業による水平的協業化の場合も、大規模商業者に対抗するだけの規模の効果を発揮できず、加盟店舗数が伸び悩むとともに、取り扱える商品アイテム数が限定されたことで、スケールメリットの創出に限界が生じたケースが認められた。

_V_.おわりに
 一般用医薬品や日用雑貨などを取り扱うVCは今後、医療用医薬品を積極的に扱うため、連結の効果を発揮して、一つの小売業支援システムを構築したうえで、それぞれの商品特性が要求する配送条件に合わせた物流システムを構築する必要がある。また、ローカルな薬局同士の水平的協業化が、地域商業を支える手段として成立しうる。情報システム導入時のコストを少数の参加企業で分担することで達成される水平的協業化は、従来の事業の補完的役割を果たすであろう。その際、医療用医薬品の多頻度小ロット配送による配送コストの低減を図るため、他の商品との混載により積載効率を高める努力を行う必要がある。
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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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