日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
会議情報

和ろうそく製造業の特徴と課題
*初澤 敏生
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 172

詳細
抄録
 和ろうそく製造業は我が国の伝統的な産業の一つで、各地に産地を形成していた。しかし、安価な洋ろうそくの生産拡大によって急速に縮小し、各地の業者は新たな体制で生産を進めている。本報告では和ろうそく製造業の存立基盤の検討から和ろうそく製造業の現状と課題を明らかにすることを目的とする。
 和ろうそくの主要な原料は灯心と木ロウに大別される。灯心は和紙を軸としてそのまわりをい草の芯と真綿で固定する。木ロウは糸などではうまく吸い上げられないので、和紙を芯に使わなければならない。ただし、品質的にはあまり高級なものを必要としているわけではない。現在は機械すきの和紙が主に使用されている。灯心で問題となっているのはい草である。近年、我が国のい草生産は急減し、特に東日本では良質な原料の入手が困難になっている。
 一方、木ロウは主にハゼの実を原料として採取しているが、生産量が少ない上にコストが高いため、使用量はあまり多くない。伝統的な原料にこだわる業者も少なくはないが、生産量的に見るとパラフィンやステアリン酸、牛脂硬化油などを使用しているものが多い。形態は和ろうそくであっても、成分的には洋ろうそくと大差ないという状況である。そのため、伝統的な原料にこだわっている業者からは成分表示を明確化するように要求がでているが、業界としては対応できていない。これについては消費者保護の観点からも、今後、問題になるものと考えられる。
 和ろうそくの生産方法は、大きく手がけと型どりに区分される。型どりは型の中にロウを流し込み成形するもので、特別な技術は必要とされない。
 これに対し、手がけは1本1本のろうそくを手でロウを付けて成形していくもので、一人前の職人になるためには約10年の修業が必要であると言われている。このため、現在では家族以外の後継者の育成は事実上不可能な状態となっている。既に手がけ技術の伝承が途絶えてしまった業者も存在している。この傾向は今後さらに強まるものと考えられる。手がけ技術の保存が課題である。
 市場については業者による差が大きい。以下では4つの事例から検討を加える。
1.地元市場型
 a.宗教需要依存型
 宗教需要は和ろうそく需要の中心的なものの一つである。福井市内に立地するA社は地域の一般家庭での需要を中心とした生産を進めている。仏壇の灯明に用いられるために製品は小振りかつ安価で、1匁ろうそく10本で250_から_300円程度の価格の商品が中心である。このために生産は全て型どりで行われている。出荷ルートは雑貨問屋経由で、荒物屋などで多く販売されている。
 b.観光需要依存型
 和ろうそくに絵を付けた絵ろうそくは観光土産品として根強い需要がある。会津若松市内に立地するB社は観光土産品を中心に生産・販売している。生産価格は10匁ろうそくで1500円程度になる。観光地に立地していることを生かして店舗も兼営、生産量の6割ほどを自店舗で販売していている。残りは市内及び周辺部の土産物店で販売されている。
2.広域市場型
 ここでは2つの事例を紹介したい。
 C社は新潟県亀田町に立地している。C社は自らはろうそくの生産能力を持たず、外注によって生産したろうそくに、内職を利用した絵付けを行って出荷している。C社は15年ほど前から戦略を転換し、伝統にとらわれない様々なタイプの絵付けを行った製品を東京市場などに出荷、市場を開拓してきた。価格帯は10匁ろうそくで1000円程度と前述の事例に比べて安めであるが、これは前述のような生産体制を活用してコストダウンに努めているためである。C社は新製品開発にも力を入れ、和ろうそくをインテリア的な要素を持ったものへと拡大している。
 D社は滋賀県今津町に立地している。D社は伝統的な材料を中心とし、絵付けのないろうそくを生産している。製品は使用されることを前提としているため、価格は1匁ろうそく16本で2000円程度である。D社では手がけと型どりを併用している。D社は線香問屋を経由して出荷し、比較的広い流通地域を確保している。また、D社は7人のパートを利用して型どりで生産を行っているために生産力が大きく、無地のろうそくを絵付けろうそく業者に素材として提供してもいる。
 和ろうそく製造業は生産業者が少なく、もはや産地を単位とした生産体制を組むことは困難になってきている。しかし、その一方で、これまでとは異なった形で広域的な分業体制を形成するなどして新しい発展方向を模索する企業もある。今後は全国的な分業体制なども視野に入れ、新たな生産体制を形成することが必要であると考える。
著者関連情報
© 2004 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top