抄録
仙台平野南部に位置する阿武隈川沿いの沖積低地には,自然堤防,旧河道,後背湿地,浜堤列の発達が明瞭である.本研究では阿武隈川の現河道から離れて後背湿地上に延びる自然堤防_-_旧河道地形の形成時期および形成時の地形環境を詳細に検討した.対象とした自然堤防_-_旧河道地形は阿武隈川右岸田沢から下郡を通過し榎袋へ連続する直線的なもの(自然堤防_-_旧河道_I_),十文字から榎袋を通過し高屋へ連続する屈曲したもの(自然堤防_-_旧河道_II_),左岸押分から矢野目へ連続する直線的なもの(自然堤防_-_旧河道_III_)である.いずれの自然堤防_-_旧河道地形も,第_I__-_第_II_浜堤列間の後背湿地上に発達してる.
いずれも旧河道は放棄後,有機質シルト_-_粘土層によって埋積されている.旧河床直上の埋積堆積物のC-14年代測定により,旧河道の放棄年代は自然堤防_-_旧河道_I_が3,300yrBP,自然堤防_-_旧河道_II_がおよそ2,600ryBP頃,自然堤防_-_旧河道_III_がおよそ1,600yrBP頃であることが明らかになった.
一方,自然堤防_-_旧河道_II_では,自然堤防直下の後背湿地堆積物のC-14年代測定から,自然堤防の形成が3,000yrBP以降であることが明らかになり,自然堤防_-_旧河道_II_の形成および放棄は3,000yrBP_-_2,600yrBP間のいずれかの時期になされたことになる.
次に,自然堤防形成時の地形環境を明らかにするため,自然堤防上からボーリング調査を行った.自然堤防_-_旧河道_II_では十文字から榎袋付近にかけて,自然堤防直下の後背湿地堆積物の上面高度がそろっていることから,自然堤防_-_旧河道_II_の形成直前には後背湿地が広がる静穏な環境であったと考えられる.自然堤防堆積物の粒度分析を行った結果,沼ハタから榎袋にかけての区間で粒度に急激な細粒化(粗粒砂_-_シルトからシルト_-_粘土へ変化)が認められる.さらに,空中写真判読においても榎袋から下流では自然堤防_-_旧河道地形が不明瞭になり,やがて消滅することから,自然堤防_-_旧河道_II_の形成当時,当該地区はある水深で湛水した状態にあったとのではないかと考えている.このことから,自然堤防_-_旧河道地形の形成は湛水域へ侵入した洪水流によってなされたと考えられる.
なお,ここで得られた旧河道の埋積開始時期(2,600yrBP,1,600yrBP)は,近年継続して調査が行われている仙台平野中・北部のそれらと時期的な共通性が認められた.