日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
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CVMによる河川環境管理の空間的経済評価
京都市鴨川,桂川に関する比較分析
*青野 純也村中 亮夫
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p. 25

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抄録

_I_ 研究のフレームワーク  高度経済成長期に代表される河川事業は、氾濫区域の生命財産の安全確保、水資源の安定確保など、治水・利水機能の拡充整備に重点がおかれてきた。しかしオイルショック以降、国民の関心は自然環境の保全、水辺空間の整備、生活アメニティへと広がった。1997年、環境に対する関心の高まりをうけて、環境アセスメントは法的拘束力を持った環境影響評価法となった。しかし、この環境影響評価法は自然科学的視点からの評価しか行っておらず、社会的評価としては不十分であった。保全に対する評価を国民的合意を前提とする政策論にまで展開していくためには、客観的指標が不可欠であり、地理学の分野では吉越(1999)らが環境に対するイメージをSD法(意味微分法)用いて社会的評価を行っている。経済学の分野では、多面的機能の経済評価を貨幣尺度で表し、政策的議論で利用できる指標を提示した。その分析方法にはいくつかあるが、客観的かつ多面的な評価が可能あることから、1990年代より日本では表明選好法の一種であるCVM(仮想市場評価法)による研究が急速に蓄積されつつある。村中(2002)、吉田他(1997)では、評価主体の個人属性、景観認識の様態、また、環境の財へのアクセス時間が、景観の経済的評価に影響を与えていることを明らかにした。
 以上のような動向を踏まえて、今回の研究では個人属性や環境政策への理解度、景観イメージの定性的評価などと、経済的評価との因果関係を分析し、空間的経済評価の観点から多面的機能の保全のあり方の一側面を提示する。具体的には多面的機能の一つである河川の景観形成機能に注目し、河川環境整備の経済的評価とそれを評価する主体の属性、距離減衰効果を中心に分析を行う。また二財を同一者から評価する有効性も併せて考察し、政策的議論への可能性を示唆していく。
_II_ アンケート調査の概要  本研究の対象地域は、京都市嵐山にある渡月橋_から_同市三条大橋間の、帯状地帯である(東西約8km、南北約1km)。今回の調査ではCVMを用い「京都市民にとって2004_から_2008年度に期待される、京都市内を流下する桂川(嵐山付近)と鴨川(三条大橋付近)の河川環境の景観」の経済的評価を行う。調査期間は2003/9/28_から_10/10で、対象地域内より距離帯別に無作為抽出した2700世帯に郵送調査を実施し、335のサンプルを得た。調査票は_丸1_CVM調査票、_丸2_イメージ調査票、_丸3_フェイスシート、の3部構成とした。

_III_ 河川環境整備の経済的評価とその要因分析  河川環境整備に対する経済的評価は、回収したアンケートより正常回答者を抽出し、そのサンプルより得られた支払カードの平均値から、京都市の総世帯数を掛け合わせることで算出した。その結果、各河川の母集団支払意思額(Total WTP: TWTP)は桂川で約5億8400万円、鴨川で約5億7200万円となった。
重回帰分析による要因分析の結果、桂川に関しては河川価値低下への遺憾度(順序スケール)がWTPに正の影響を及ぼした。鴨川に関しては河川からの距離が負の、鴨川への景観を楽しむという訪問目的(2値ダミー)が正の影響を及ぼした。WTPの距離減衰効果は、村中(2002)、吉田他(1997)の結果に対応する。また各河川へのWTPが、互いに正の相関を持っていることが分かった。
_IV_ 考察  両河川に対するWTPに対して、河川価値低下への遺憾度が正の影響を及ぼすことから、河川環境低下に関する意識の差異が河川環境整備に対するWTPに影響を及ぼすものと考えられる。また、鴨川に対するWTPに対してのみ、「河川からの距離」と「鴨川への訪問目的(景観を楽しむ)」の2変数が影響を及ぼしていた。桂川を訪れる目的は、イベントなど、非日常的な利用の割合が高い。鴨川を訪れる目的は、通行など日常的な利用の割合が高い。このことから、空間利用の差異、ひいては空間利用の認識の差異が、両者に対するWTPに与える影響要因の差異を生み出していると考えられる。
以上より、河川環境に対する意識の度合いや、河川との関係、つまり河川の利用形態や河川との空間的関係の差異が、両河川の経済的価値を規定する要因としてあげることができる。こうした河川環境整備の経済的価値に対する空間的な影響要因の検討は、河川環境の持つ多面的機能保全のあり方を議論する際に単に客観的な経済指標を与えるのみならず、算出した金額について地理学的に積極的な議論を展開させることができる。

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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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