日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
会議情報

植生にとって水分条件と温量条件のどちらが大切か?
*鈴木 力英徐 健青本谷 研
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 30

詳細
抄録

1. はじめに: 世界の陸域における植生の地理的分布は気候条件によって強く支配されている.そのうち特に,湿潤条件と温量条件は植生の分布範囲を決める最も基本的な要因であろう.本研究では,衛星観測による植生指数データを利用し,植生を湿潤条件支配型と温量条件支配型の二つに区分し,それぞれの地理的分布を調べた.
2. データと解析方法: 解析は全世界の陸域を覆う1×1度のグリッドセルをベースに行った.すべての解析は1987年と1988年の平均値を元に行った.
植生指数: 植生指数データは千葉大学によって作成された「Twenty-year global 4-minute AVHRR NDVI dataset」から得た.北半球では3月から9月まで,南半球では9月から3月までの各1×1度グリッドセルにおける平均の植生指数を計算した.
湿潤指数と温量指数: 湿潤指数は各1×1度グリッドセルについて可能蒸発量に対する降水量の比(P/Ep)で計算する.温量指数は月平均気温のうち5oCを超えた部分を年間積算して求める.実際の計算にあたり,可能蒸発散量はISLSCP (International Satellite Land Surface Climatology Project) Initiative-Iのデータを用いて推定した.降水量はNCEP (National Centers for Environmental Prediction)の再解析データによる6時間値をGPCC (Global Precipitation Climatology Centre)による月別降水量でキャリブレーションした値を用いた.温量指数の計算にはISLSCPの気温データを用いた.
3. 結果: 陸上の各1度グリッドセル中の三つの指数(植生指数,湿潤指数,温量指数)を図にプロットし,三者の関係を調べた(図は省略).その結果,湿潤条件支配型のグリッドセルと温量条件支配型のグリッドセルを分離することができた.それぞれのグリッドセルを地図上にプロットし,図1に示した.二つの支配型の分布は明確に分離される.世界のおおかたの植生は湿潤条件支配型に属するが,北半球高緯度地方や高標高地域,それから南極大陸などが温量条件支配型となる.シベリアにおいては両者の境界はほぼ北緯60度に沿っており,Olsonの地表面分類によれば,タイガとそれ以外の植生との境界にほぼ対応している.チベット高原も温量条件支配型に分類される.
以前の研究により,北部アジアではほぼ北緯60度に沿って植生指数が最大となることがわかっている.本研究で得られた二つの支配型の境界は,この最大の植生指数が分布するゾーンにほぼ対応している.これらの結果を合わせて考えると,シベリアではこの北緯60度に沿った最大植生指数が分布するゾーンにおいて湿潤条件と温量条件ともに植生にとって最適となり,それ以南では湿潤条件が,以北では温量条件が植生にとって支配的であると結論できる.

著者関連情報
© 2004 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top