日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
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函館市における都市内人口移動と住宅立地
*沼田 尚也
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p. 51

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抄録

1.はじめに
 都市間,都市内にかかわらず,人口移動は都市構造の変容を考えるうえで重要な要素となるものである.人口移動において都市間人口移動は労働力移動,都市内人口移動は居住地選好の意味合いが強いが,そのうち,本研究では都市内人口移動を主に扱う.
地理学における都市内人口移動研究においては,実際の移動単位である世帯別の詳細な移動データを用いたものは少なく,また都市内移動が居住地選好の意味合いが強い移動であるにもかかわらず,その着地である住宅立地と人口移動を重ね合わせて都市構造を解明した研究もあまり多くない.そこで,本研究では,詳細な世帯別の人口移動データによる都市内人口移動の傾向と住宅立地とから,都市の構造変容を解明する.

2.研究方法
 本研究は函館市を対象地域とする.研究方法は以下のとおりである.
まず,函館市における人口増減や転入人口などの人口特性,および住宅の立地を概観する.次に,男女別年齢別の都市内人口移動,および実際の移動単位である世帯別の移動パターンを明らかにする.最後に,それらをあわせ,さらに函館市の都市計画および住宅マスタープランを考慮に入れて,郊外化や再開発を中心に函館市の都市構造の変容を考察する.
使用したデータは函館市から提供されたもので,主に2001年1月から2002年12月における函館市の転入,転出,転居に関する非集計データである.これは世帯を単位とするが,年齢や性別といった詳細な世帯人員のデータが記されており,そこから個人別の移動もわかるデータである.有効ケース数は転入が9,281世帯,転出が10,073世帯,転居が10,582世帯である.なお,移動の発地,着地は市内ならば町丁別に示されている.
本研究ではこのデータからまず都市内人口移動数を図1のように示し,さらに各年齢階級や世帯の移動パターンを図2のように図示する.
 なお,資料として,住民基本台帳を基にした函館市の『町丁別年齢別人口表』,『国勢調査報告』,『函館市における新規建築申請』を併用する.

3.結果
分析の結果,函館市における都市内人口移動と転入人口,住宅立地の関係について下記のことが明らかになった.まず,人口特性については,函館市では郊外で人口が増加しており,都心部で減少していた.既存の住宅立地は郊外において一戸建住宅,都心部において集合住宅が多く,かつての都心部などでは長屋建住宅が多かった.新規の住宅は函館市の政策として,住宅の新規建築を誘導している市北部の郊外地区に一戸建,都心部に集合住宅の立地がみられた.また,転入人口は市の郊外地域と都心地域への転入が多くみられた.次に,都市内人口移動に関しては,個人別,世帯別の移動からは,結婚などといった人生の移動契機が多いと考えられる年齢層における移動が多いことがわかった(図1).そのとき,図2のような個人別,世帯別の移動分析から,移動契機が集中する年齢層であってもその世帯規模の別により,世帯規模が大きくなるほど郊外を指向することが明らかになった.
さらに,人口移動や住宅立地の分析結果を併せると,函館市の都市構造変容に関しては下記のことがいえる.まず,函館市における郊外化は転入人口と都市内人口移動のうち,それぞれかなりの数が,市が政策として新規の住宅建築を促している郊外地区を指向することから起こっていることが明らかになった.このうち,中心的に分析した都市内人口移動よりその傾向をみると,移動数が非常に多い20_から_30代の年齢層が世帯の中心となって形成する世帯のうち,世帯人員の多い世帯ほど,郊外を指向し,函館市における郊外化を進める主な要因の一つとなっていた.しかしながら,同じ20_から_30代の年齢層であっても,単身世帯の場合は都心部における移動が多く,郊外化の要素にはあまりなっていなかった.だが,都心部においては新規の住宅立地として再開発と考えられる集合住宅の立地が多くあり,単身世帯の移動はこれに関連している可能性が高いことがうかがえた.

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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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