日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
会議情報

地域にとって有効なハザード情報・ハザードマップ
2003年宮城県北部地震からの教訓
*村山 良之
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p. 60

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抄録
1. 2003年宮城県北部地震による災害
 2003年7月26日に発生した宮城県北部の地震では、局所的ながらひじょうに激しい被害が生じた。発表者らは、日本建築学会の災害調査WG(東北大災害制御センター・地理学教室・経済学研究科、工学院大など)に加わり、2,600棟あまりの建物について、現地調査とその後の解析を行っている。
左の表は、震源のほぼ直上、旭山丘陵の緩斜面と谷底に展開する集落、河南町北村地区の木造家屋被害に関するものである。被災程度が、建築年代と建物直下の地盤変状(沈下や亀裂など)の有無と強く関係することが明瞭である。また、大規模な地形改変によってつくられた新しい住宅地である矢本町緑ヶ丘においては、道路や敷地の亀裂などが、盛土部や切土・盛土境界部に集中し、切土部にはほとんど無い。さらに、上記WGは、沖積低地内の南郷町二郷地区において、全壊や半壊の建物が自然堤防上に少なく、旧河道に多いことなどを明らかにした(左下の図)。以上は、地震災害において、建物の堅牢度とともに、土地条件が決定的に重要であること(増田・村山, 2001, 地学雑誌, 110)、すなわち、土地条件情報・図が地震ハザード情報・マップとしてきわめて有効であることを、改めて示した。
2. 地域にとって有効なハザード情報・ハザードマップのために
 近年の地震災害の経験から、地形(とその改変)および地形で示されるごく表層の地質が地震に対する土地条件として重要であることは、我々地理学徒にとって、かなりの程度常識であり、上記の結果は、既に明らかないしある程度推測可能なものであったといってよい。とすると、建物被災を免れるまたは軽減するためには、土地条件に関する的確な情報を、地域の人々や行政などに正しく伝えることが、大きな課題として浮かび上がる。
 さて、長野県松本市では、1996年の糸魚川_-_静岡構造線の長期評価を受けて、1/2,500の詳細な危険度判定地図を作製して住民に公表し、これに基づいて、町内会などの小地域単位で説明会などを開催した。ただし危険度判定は、建物密度や老朽度のみに基づくもので、土地条件は一切考慮されず、市域全体で震度7が想定されていた。誰にもわかる情報・地図をもとに住民とのリスクコミュニケーションを図る(ひいては地域の安全性を高める)意欲的かつ有効なやり方と評価できよう。土地条件というさらに有効であるはずの情報提供がなされなかったことは、住民が納得できるほどに(行政が)土地条件を説明できない(ことへの懸念の)ためであると考えられる。
 以上から明らかなのは、地震など自然災害の土地条件を的確に表現する地形分類と、それを住民や行政に正しく伝えることが、地理学者(地形学者)に求められるということである。地形分類図、新旧の地形図、空中写真などを用いたプレゼンテーションやワークショップは、研究者と住民や行政とのリスクコミュニケーション手段として、有効であると思われる。さまざまな蓄積を有する地理教育の研究者・実践者の参画も強く求められる。
また、土地条件・地形情報はGIS化され、地震工学分野などと情報を共有し定量的に検証されねばならない。他分野との交流も、お互いの研究分野にとって有益であると思われる。
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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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