抄録
1.問題の所在
教育におけるGIS導入検討の段階は終わり、今後どのようにGISを活用した教育を発展させていくかが課題となっている。GISを活用した教育(教育GIS)の裾野を広げていくためには、まず教員に対して、「教育GISがどのように認知されているのか」、「学校教育における教育GISの実態」を把握していくことが重要であると考えられる。福田・谷(2003)は、埼玉県の高校地理教員を対象に、GISを用いた地理教育についてのアンケート調査をおこった。その成果を踏まえ本研究では、対象を拡げて小学校・中学校・高校教員にアンケート調査を実施し、小中高校教員の教育GISに対する認知と活用の現状を把握することができたので報告する。小中高校の3つの校種の教員を対象としたのは、教育GISはそれぞれの校種で独立して行われるものではなく、連続性を重視すべきであるとの観点からである。また明らかとなった教育GIS導入における課題についても考察する。
2.研究方法
兵庫県内の高校地歴・公民科教員、神戸市立・西宮市立の中学校社会科教員、西宮市立の小学校教員を対象とした。西宮市の小・中学校教員に対して、市立小学校42校、市立中学校20校にアンケート用紙を郵送し32校より179名の回答を得た。神戸市の中学校社会科教員に対しては、2003年8月教員研修がおこなわれた際、参加者にアンケートを配布し記入をお願いし、52名の回答を得ることが出来た。また高校教員に対しては、2003年8月に行われた高校社会(地歴・公民)部会の授業研究大会において、アンケートを配布し、35名から回答を得た。有効回答の総計は266である。
3.結果の概要
(1)GISの認知
よく知っている教員は4.1%、言葉を聞いたことがある教員は24.4%に過ぎず、全体として極めて低い結果となっている。小・中・高の校種別では高校の、専攻別では文学系専攻の認知が高い。年齢別では大きな差は見られないが、50代の認知が低くなっている。性差は見られない。
(2)コンピュータ利用
コンピュータを利用している教員とGIS認知との相関は見られない。教育GISの導入をはかるには、コンピュータを利用した授業ができていることが必要条件といえる。しかしながら中・高校の社会科・地歴・公民科においてコンピュータを1年を通し全く授業で利用していない教員は、73.1%にものぼる。
(3)教育GIS研修の効果
神戸市中学教員への調査は、教育GISの授業実践報告を受けた直後である。教育GIS研修を受けていない西宮中学教員と比較すると、_丸1_GISへの興味の上昇、_丸2_「GISを授業に活用できる」とする回答の増加、_丸3_GISを授業で活用するにあたっての課題の指摘数の増加等がみられる。これは教育GIS研修の有効性を示している。(4)教育GIS導入にあたっての課題
指摘された課題は、多い順に_丸1_情報機器の不足(全回答中の指摘率35.3%)、_丸2_ソフトやデータに費用がかかる(32.3%)、_丸3_教員の研修機会(30.1%)、_丸4_授業時間数が少ない(25.2%)となった。この他、教育ソフトが少ない、教材準備に時間がかかるという指摘も多い。
4.教育GISの課題
(1)従来からGIS導入にあたっての課題は情報機器、ソフト・データ、教員の資質といわれてきたが、アンケート結果からもそのことが裏付けられた。近年の情報機器の導入推進、インターネット導入、web上でのデータ提供、低廉(フリー)な教育GISソフトの登場などによって上記問題点は解決されている部分も多い。しかしながらそのことは多くの教員には認知されていない。一層の広報活動が必要である。現時点での最重要課題は教員の資質向上であるといえる。
(2)教育GISの裾野を広げる努力が必要である。神戸市と西宮市の中学教員の比較から明らかになったように、教育GISの研修の重要性が問われている。
(3)中・高校の社会科,地歴・公民科教員の授業でのコンピュータ利用は遅れている。これら教科での導入を推進を進めるとともに、技術・理科・情報あるいは職業科目における教育GISの取り組みはさらに検討されるべきである。一方小学校ではコンピュータを活用する教員が多く、GISが導入される下地が出来つつある。小学校の課程に対応した教育GIS教材の蓄積が望まれる。
文献
福田徳宜・谷 謙二 2003.高校地理教育におけるGIS利用の可能性.埼玉地理27:17-25.