日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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津波災害によるマングローブ林の環境変化
*林 一成宮城 豊彦柳澤 英明Tanavud CharlchaiMeepol Wijarn
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p. 100

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抄録

1. はじめに2004年12月27日に発生したスマトラ沖地震による津波はインド洋沿岸の諸地域において甚大な被害をもたらした。マングローブ林は一般に津波や高潮などの災害に対して緩衝地帯となって波高を減衰し、陸域の被害を軽減することが指摘されている(例えば、松田ほか1997)が、他の流亡物質と同様に、津波によって破壊された場合は流木洪水のように作用し災害を拡大する可能性がある。そこで本報告では、タイ国アンダマン海沿岸においてスマトラ沖地震による津波の到達波高とマングローブ林の分布を明らかにし、マングローブ林で見られた環境変化と津波災害に対する防災面の効果を検討する。2. 調査方法災害発生から約2ヶ月後の2005年2月24日_から_3月8日にかけて現地調査を行い、地形測量と津波の痕跡から波高を測定した。また、それぞれの地域においてマングローブ林の構成樹種、樹高・樹木密度の簡易測定、森林の分布と津波堆積物の観察などを行った。調査を行った地域はアンダマン海沿岸のラノン県からクラビ県ピピ島までの沿岸約300kmのマングローブ林である。3. 今回の津波によるマングローブ生態系への影響調査地と津波の到達波高、マングローブ林の影響を下図に示した。津波の到達波高はカオラック周辺で7-10mに達し、南北に減少する傾向が見られた。これに対してマングローブ林は主に浜堤背後の後背湿地に立地し、2_から_3m程度の波ではほとんど影響を被らなかった。波高が4_から_7m程度に及ぶ地域では、Avicenniaなどの浅根性の種は根を掘り返されたように倒木し、Rhizophora種であっても孤立するものや森林の前面のもの、若木などは破壊された。一方でマングローブの前面に立地するCoco,Casualinaなどの海岸林や人工建築物はほとんど破壊、流亡しこれが背後のマングローブ林に押し寄せ、Rhizophora林の林縁でせき止められている例が多く確認された。これらは津波の波高減衰にはほとんど寄与していないとみられ、マングローブの、特に林床に支柱根をはりめぐらすRhizopora種は津波の被害軽減に大きく寄与した。また、マングローブ林の無い海岸や伐採して造成された土地などでは被害が大きく、返し波の破壊などが繰り返され破堤した場所もみられた。津波の衝撃に対してはバリアとして有効なRhizophora林であるが、その後の水環境の変化による枯死や、津波による浸水と津波堆積物の堆積が海岸から1kmほど陸に入ったマングローブ林内に達した例がみられた。これらが今後のマングローブ生態系の変化に影響を与える可能性が考えられる。4. おわりにRhizophora種の森林が津波災害に対して非常に有効であることが再認識されるが、より波高の大きなインドネシアのスマトラ島バンダ・アチェなどではRhizophora種の森林が破壊された例も報告されている。ここでは、Rhizophora林が樹高程度かそれ以上に達する大きな津波を受けて支柱根から上の部分が削ぎ落とされたように破壊したり、抵抗の大きい枝葉の茂りの部分から折れたりする様子が見て取れるが、他のマングローブ種のように根元から倒木し流亡する破壊とは異なるようである。Rhizophora種が他のマングローブ種や海岸林と比べて非常に抵抗力が強い可能性が指摘される。今後はこれらを踏まえて、樹種ごとの形状や樹木密度を考慮した詳細なシミュレーションや植林計画、マングローブの沿岸保護機能を生かす土地利用戦略を再考することが望まれる。

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