日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
会議情報

地すべり地における地形・運動特性・物質特性のリンク
地すべり地形の危険度評価に関する基礎的分析
*宮城 豊彦濱崎 英作内山 庄一郎林 一成
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 99

詳細
抄録

はじめに:地表面形態の系統的な理解から導かれる地すべり活動や物質特性に関する想定は、実際のそれとどのように対応するのかについて、秋田県南東部に位置する大規模岩盤地すべりである「狼沢地すべり」を事例として検討する。目標を実現するために、狼沢地すべりの概要と再活動の危険度を把握した後、詳細等高線図、美地形分類、表面キレツの分類、スベリ面等高線などの地形関連情報、ボーリングコアキレツ密度と岩相、移動杭変位に基づく地表面の応力分布などのデータ間の対応を吟味した。分析対象の狼沢地すべりは、成瀬川左岸に広く分布する長大斜面であり、長軸延長約1.5km、最大幅約0.7kmの規模を有し、地質は、中新世中期女川階に相当する西小沢層の硬質頁岩、同砂岩、凝灰岩などの互層からなり、地質構造は西落ち10_から_25度の同斜構造を呈する。平成4年に地すべり防止区域に指定され、その後継続して調査と対策が実施されている。狼沢地すべりを「空中写真判読による危険度評価手法」の評価カルテを用いてAHP得点を求めると、78_から_84点という高得点がマークされ、最優先で現地調査と対策検討すべき危険度の高い地すべり地形と評価された。地すべり地形、スベリ面形状の把握、歪み、移動体のキレツ、層相:ここでは、いわゆる「微地形スケールの写真判読図」と「地表面を広く覆う極めて小規模なキレツ状の微起伏」の2つのスケールで地形を捉える。微地形スケールで捉えた地すべり地形:全体として西に流れ下る地すべりは、3・4段の緩やかなステップに分かれる。この上端部は主滑落崖で、その上方には巨大なスラブがある。主滑落崖の下方には移動体が広がるが一つの大規模な副滑落崖の下方で大きくうねり、次第に起伏を減じて狼沢に至る。移動体の地表面を詳細に観察すると、広い範囲に微小なキレツもしくはキレツ状の微地形が確認される。この詳細な地形の分布、平面図などから、初生的なステージでは層面岩スベリのブロックの形成、その後破砕された一部に円弧スベリの本格的な地すべり活動の発生、副滑落崖の形成にかかわる移動体域の再破壊、破壊が進んだ移動体の更なる破壊という一連のプロセスが空間的に配置されていることを想定させ、それぞれ微少キレツの平面形からは地すべり移動体内における相対的な張力歪、圧縮歪の分布を表現していることが想定される。スベリ面高度分布図から理解されるスベリ面形状は、移動体上部ほど地表面と対応し、先端部で対応が無くなるように見える。移動体の変位から見た地表面のヒズミ分布は、微地形から想定されたヒズミの分布想定と極めて調和的であった。移動体ボーリングコアのキレツ密度・層相解析は11本のコア写真についてキレツ密度を計測した。ここでキレツ密度とは、長さ約1mのコアに現れたいわゆるキレツと破砕され角礫化した状態で採取されたコアの隙間などを一括したものである。併せて、コアの岩層を1m単位で新鮮岩、新鮮岩の破砕部、風化岩、風化岩状の破砕部、粘性土に分類化した。キレツや岩相は想定された応力場に相応すると考えてよい状況を呈していることが明らかになった。まとめ:狼沢地すべりの微地形を系統的に分類把握し、地表面応力場、スベリ面形状、移動土塊物質特性の対応を検討した。これらは、何れも極めて良好な対応を示し、地すべりという動きが、これら一連の特性を発生させていると考えてよいことが明らかになった。空中写真判読による地すべり地形の危険度評価の一部を構成する地表面の微地形やキレツの状態を系統的に観察し把握する(岩手県土木部 2002, Miyagi et al. 2004)ことの有効性の証左でもある。移動杭の変位から算出される地表面の歪み分布は、移動体内部のヒズミ蓄積状況の空間的把握でもある。次のスベリ発生予測につながる理解となろう。地すべり微地形、移動土塊、応力場に良好な対応が見られるのは本来当然である。今回の検証は、諸指標の合理的な理解が進んだことで実現される状況になった側面がある。今後、さらに詳細な解析に耐える大規模地すべりを対象に、検証を重ねることが必要である。地すべりをより合理的に理解するために、例えば「解像度の高い空中写真とレーザー測量データを用いて危険度評価を行い、そこで想定される動きを復元できる密度と配置で設置した移動杭の観測データから現時点での応力分布を復元し、ヒズミ高蓄積域に調査ボーリングを行う」というように、地形と地質とが体系的にリンクされていくことが考えられる。

著者関連情報
© 2005 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top