日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
会議情報

メトロマニラ郊外市街地における住宅地緑地の量的・質的特性
*原 祐二小笠原 澤パリホン アルマンド武内 和彦
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 11

詳細
抄録

はじめに
東南アジア巨大都市では、農村部から都市部への人口流入により、市街地が急速に拡大した。このような市街化は、多様な環境保全機能を有する緑地を侵食する形で進行し、生活環境の悪化が懸念される。本研究では、フィリピン・メトロマニラの郊外部に位置するマリキナ市を対象に、都市的土地利用の拡大プロセスの把握と、緑地の量・質の現状解明を研究目的とした。
マリキナ市の土地利用・緑地の経年変化
空中写真判読から、数時期のマリキナ市の土地利用図および緑被分布図をデジタルデータで作成した。その後、既存の地形分類図も用い、GISソフトウェアにより都市化に伴う土地利用変化と地形との関連性、および緑地の変化を解析した。主な土地利用変化は、農地や空地から住宅地等都市的土地利用への変化であったが、農地から空地を経て住宅地へ変化するパターンの存在や、多くの空地の残存が特徴的である。地形との関係については、自然堤防上は初期段階から開発が進んでおり、その後は後背湿地や丘陵地に先んじて河岸段丘上で都市的土地利用が拡大していた。そして、開発に伴い、全土地利用で緑被率が減少していた。つまり、土地利用は当初地形条件に支配されていたが、都市化の過程で開発の容易な地形上でまず市街化が進み、その後全地形上で市街化が進展、現在では基本的に地形別の緑被率に有意な相関は見られなかった。
現地樹木調査
マリキナ市街地の緑の現況解明のため、樹木調査を行った。調査項目は、各筆の土地利用、樹木名、樹高、胸高直径、調査区の開発時期(ヒアリングによる)である。敷地面積は、マリキナ市計画局で入手した地籍図をデジタル化してGISにより計測した。本樹木調査は、18調査区481区画で実施された。まず土地利用ごとに樹木の量的・質的特性の概要を分析した。樹木の量としてはバイオマス量を扱った。質としては、樹木の持つ機能に着目して、種を果樹・装飾樹・緑陰樹に分類し、本数の構成比を分析した。その後、住宅地に焦点を当て、敷地面積と樹木の量・質の関係について詳細な分析を行った。敷地面積の分布を考慮して、敷地を0-100m2、100-200m2、200-300m2、300-400m2、400m2以上の5つに分類し、各グループ間でバイオマスの差を比較した。また、樹木の質的側面を理解するため、果樹・装飾樹・緑陰樹それぞれのバイオマス量を上記のグループおよび樹高の階層別に評価した。土地利用別の分析の結果、バイオマス量を敷地面積で除し、密度に変換して比較すると、高いものから順に、公共空地、空地、道路、住宅地であった。樹種構成は、住宅地は果樹と装飾樹が大半を占め、空地は果樹がほぼ独占し、公共空地では果樹、装飾樹、緑陰樹がほぼ均等に出現し、道路では装飾樹と緑陰樹が優先するなどの傾向が見られた。次に、本研究で最も注目した住宅地について、敷地面積別にバイオマス密度の差を分析した結果、グループ間の差が有意であり(p<0.01)、敷地面積が近接する2グループ間では、300-400m2と400m2以上のグループ間に有意差があり、400m2以上でバイオマスの密度が大きく増加することがわかった。しかし、400m2以下の敷地でもバイオマス密度がばらつくことや、空中写真判読より近年増加した住宅地の緑の少なさが示唆されたため、開発時期のバイオマスへの影響が考えられた。そこで、1955年の地形図およびヒアリングの結果から旧い住宅地を抽出し、各グループ内で住宅地を新・旧に分類して比較した結果、200-300m2のグループで旧い住宅地のバイオマス密度が新しい住宅地より有意に大きくなっていた(Mann-WhitneyのU検定:p<0.05)。また、グループごとに、樹木の存在する1敷地あたりのバイオマス量を樹高の階層および樹木の機能別に評価した結果、本数の構成比と違いバイオマス量の大半は果樹に由来すること、装飾樹のバイオマス量は300m2以上の敷地では急増し、低層のみでなく高木層にも分布すること、また、9m以上の高木のバイオマス量が300m2以上の敷地で大きく増加することが分かった。さらに、緑の量に違いのあった200-300m2の新・旧の住宅地について同様の解析を行った結果、質的な面で、両者とも果樹のバイオマス量が圧倒的に多いものの、旧い住宅地では果樹・緑陰樹が出現し、新しい住宅地では果樹・装飾樹が出現するという違いがあることが分かった。

  Fullsize Image
著者関連情報
© 2005 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top